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パンケーキでも作ろうかと食料庫を開け卵を手にした、その時だった。ポコッとお腹の辺りが内側からありえないほど動いた。
『ここ! ママ! ここだよ!』
「ひっ……!」
(また! また聞こえた!)
ゆっくりと下腹部に視線を移すと、今まで見たことがない動きでお腹がポコポコと波打っている。まるで誰かが内側から押しているような動きで、思わず私は手にしていた卵を落とした。
カシャッと卵が床で割れた音がしたが、自分のお腹から目を離せない。私はぼうぜんと立ち尽くし、震える手を抑え込むように胸元に引き寄せた。それでもその子供の声は、容赦なく私の頭に響き続ける。
『ママったら! おどろいてないで、早くパパに会いに行ってよ! それでボクを産んで!』
今度は確かに聞こえた。はっきりと私のことを「ママ」と呼んでいる子供の声だ。男の子の声で、なにやら不穏なことをしゃべっている。
(僕を産んでって言った? 私、この世界に来て、頭がおかしくなっちゃったの?)
『ねえ、きいてる?』
「ぎ、ぎやあああ!」
不満そうに話しかけるその声に、私の頭はもうキャパオーバーだ。パニックで叫び声をあげ、腰が抜けたように床に座り込んだ。
(だ、誰か、助けて……!)
重い体をなんとか引きずり、廊下に出る扉に手を伸ばす。しかしいっこうに力が入らず、私はその場に倒れてしまった。
「リコ! どうしました? 叫び声が聞こえましたが、何かありましたか?」
ドンドンドンと私の部屋の扉を叩く音がする。どうやら先程の私の叫び声で同僚のリディアさんが駆けつけてくれたらしい。
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