02 竜王のいる異世界

1/6
前へ
/234ページ
次へ

02 竜王のいる異世界

  「きゃあっ!」  ドスンという音とともに、私の体が床に転がった。バランスを崩して倒れたからか、頭を強く打ち、目の前がクラクラする。周囲からはたくさんの女性の叫び声や、男性の怒鳴り声が響いていて騒がしい。 「何者だ! 衛兵! 今すぐこの者を捕らえよ!」 (あれ? なにこれ? 私、普通に歩いてただけなのに、転んじゃったの? それにさっきまで人通りが少なかったのに、たくさん人がいるみたい) 「痛たたた……」 「動くな!」  痛む頭に手を当て起き上がろうとした瞬間、突然後ろから背中を突き飛ばされ、抑え込まれる。いつの間にか私の周りを取り囲むように人が立っていて、目の前にはギラリと光る剣の切っ先が見えた。少しでも動けば瞬時に切られるだろう距離にある剣に、思わず喉がひゅっと鳴った。 「ちょ、ちょっと待ってくださ――」 「喋るな! 竜王様の御前だぞ!」 「ぐっ!」  ほんの少し顔を上げ口を開いただけで、私は頭をわしづかみにされ、床に押さえつけられる。かなり乱暴にされたので、顔はジンジンと痛み、舌が少し切れてしまった。口の中に広がる血の味が、少しずつ現実で大変なことが起こっていることを実感させ始める。 (な、なんなのこれ? りゅ、りゅうおうって何?) 「一体この女はどこからやってきたのだ!」 「おまえら警備はしっかりやっていたのか!」 「しかしこの者は突然竜王様の前に現れたように見えました! 何か得体のしれない術を使ったのでは?」 「何! 魔術師だと!」
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

505人が本棚に入れています
本棚に追加