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(ど、どうすればいいの? 私、何も悪いことしてないのに!)
カツンと大きく靴音が鳴り、私はハッと目を開いた。目の前には成人男性くらいの大きさの、豪華な刺繍がほどこしてある靴が見えた。きっとこの靴の主が「竜王」なのだろう。
「顔を上げろ」
その言葉にそろそろと上を向いた。下から上へゆっくりと顔を動かすと、私の瞳は目の前の人の姿を捉えていく。最初に目に飛び込んできたのは、ひと目見ただけで上質だとわかる赤い服だ。
靴だけでなく身に着けているもの全てに豪華な刺繍がしてあり、金糸が陽の光でキラキラと光っている。指には大きな赤い宝石がついた指輪。よく見てみると着ているものにも、たくさんの宝石がついていた。
そしてとうとう、「竜王」の顔が見えた。すらりと背が高く、こちらを見下ろす瞳は金色だ。年の頃は二十代くらいだろうか。プラチナブロンドの髪をかきあげ、こちらを見つめる姿はぞっとするほど美しく、まるで作り物のようにも見える。しかもただ美しいだけじゃない。目の前にいる「竜王」には、その呼び名にふさわしい、上に立つもののオーラがあった。
(この人はただの外国人のお金持ちじゃない。たくさんの人に傅かれて生きてきた人だ。逆らえばすぐに殺されるわ……)
今までこんな人に会ったことがなかった。東京に住んでいたから、時には芸能人や著名人を見かけることがあって、その人たちにも特別な存在感を感じたことはあったけど。目の前にいる人はそんなものじゃない。周囲の人たちが頭を下げているように、思わず跪きたくなる何かがあった。
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