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11 竜王の卵との話し合い
ハタハタとカーテンが風になびいている光景を背に、竜王様は穏やかな顔で私を見ていた。その姿は神々しいほど美しく、私は声も出せず立ちつくしている。
「リュディカは俺の名前だ。竜王が生まれると、森に新しく木が生えてくる。その葉で作ったのがそのお茶だ。代々、竜王の名前をつけるんだ」
「竜王様の名前……」
竜王様が一歩、また一歩と近づいてくる。昨日この世界に飛ばされた時も、同じようにこちらに向かって歩いてきて、その足音は私を追い詰めるものだった。それなのに。
今の私には、あの時とは違う胸の鼓動が襲っていた。
「リコ」
私を見つめる竜王様の瞳は、甘いお茶の色と同じだ。艷やかに光る黄金色。もしかしたら今日の私の話は、彼の同情を引いたのかもしれない。この世界で見た誰よりも優しい瞳で、私を見ている。
(ううん。日本にいた時だって、誰かにこんな目で見つめられたことはなかった……)
竜王様の大きな手が私に向かって伸びてくる。乱れていたのだろう。そのまま髪の毛を一房つまむと、そっと私の耳にかけた。
「二人でいる時は、俺のことはリュディカと呼べ」
「えっ……」
「わかったな。また明日も来るから」
「あっ! それは……」
「できません」という言葉すら言えない早さで、竜王様は姿を変え、窓から飛んでいってしまった。あっという間に彼の姿は闇に溶け込み、もう影も形もない。
残されたのは、妙に高鳴る心臓の音だけ。私はその耳の奥まで響く音を打ち消すように、ブンブンと頭を振った。
「はあ……落ち着け、落ち着け〜」
ドキドキはしてるけど、これは断じて恋じゃない。例えばイケメン俳優に一対一で見つめられたら、きっと同じように緊張してしまうはず。それと一緒だから!
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