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そう言ってリディアさんは、急ぎ足で部屋を出て行った。しんと静まり返った部屋で、私は一人大きく息を吸い、心を落ち着ける。そして自分のお腹に手を当て、そっと「竜王の卵」に話しかけた。
「りゅ、竜王の卵さん……?」
『はい! ママ!』
元気な声とともに、ポコッとお腹が膨らんだ。お腹にそえていた手にも、下から押し上げてくる感覚が伝わってきて、胸がドキッと跳ね上がる。
(声だけなら幻聴だけど、この手の感覚は現実よね……)
信じたくないけれど、これってやっぱり私が「運命の花嫁」に選ばれたってこと? 竜王様と結婚して子供を産む、ただ一人の女性。この国で女性の頂点にあたるお妃様。それが私だなんて到底思えない。
(思えないどころか、反感を買うだけだから、なっちゃダメでしょ!)
いや、その前に絶対殺されるはず。よくて拉致監禁だろう。私がパーティーを邪魔しただけで、あのギークという騎士は私のことを「卑しい平民」と罵っていたもの。徹底した身分社会のこの国で、貴族の女性たちが平民の私に頭を下げないといけないなんて、かなりの屈辱なはず。
そこまで考えると、一つの可能性が頭に浮かんだ。
(もしかしてこの子、人違いしてない?)
きっとそうだ! 私をお妃様にしたところで、誰も得しない。まだこの子は世間を知らないから、間違えたんだわ! すぐに教えて、別のちゃんとした竜人女性のお腹に入るよう教えてあげなきゃ! そう思った時だった。
『ねえ、ママ……もしかして、ママって僕のこと、嫌い?』
「えっ!」
私がずっと黙っていたからか、お腹の子はものすごく不安そうな声で聞いてきた。正直言って好きも嫌いもない。そこまで感情がついてきていないし、それに「好きだよ」なんて言ったら、この子は期待するんじゃないだろうか? そう思うと、また何も答えられなかった。
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