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僕はとうとう死を覚悟した。その時は死がなんなのかもわかっていなかったけれど、僕はここから消えていなくなると感覚でわかった。
だが、それを少し幸せだと思った自分もいた。
こんな生活が続くくらいなら、僕は「無」になりたかった。
しかし、そんなことを考えていると、突然世界が温かくなった。それは優しくて、柔らかい温かさだった。
「こんなに冷たくなってる。この子の母親はどこに行ったのかしら。もう、大丈夫だからね」
その声はとても心地よい声だった。僕は何も言葉を返せないのに、僕の存在を認めるかのように話しかけ続けてくれた。
この時間はとてもふわふわしていて、良い時間だった。
こういうのを本当の「幸せ」と言うのだと、僕はこの時初めて学んだ。
その声は外の世界について話してくれた。もちろん、彼女自身のことも。
このジャングルには階級制度があって、彼女はその最上位に位置しているらしい。王というライオンの妻なんだとか。暮らしは大変だけど、このジャングルを守るために毎日生きていると、彼女は話していた。
彼女はすごく偉大だった。自分のことも、ライオンであることも誇らしげに話してくれた。
この温かさが、僕にとって本当に幸せだった。
あの冷たい日々が嘘のように、幸せで、ずっとこのままだったらいいのにとそう思った。
僕は頑丈な殻の中で、守られながら少しずつ大きくなっていった。
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