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それからも、彼女は僕のそばにいてくれた。
この日は、歌を聴かせてくれた。美しい歌声に優しいメロディーが乗っかりとても心地よかった。
この歌は、彼女の母が小さい時の彼女に聞かせてくれた歌だそうだ。
「私達はね、あなたたちと違って卵ではなく、母親のお腹の中で育てられるのよ。不思議よね」
彼女はそう言いながら、柔らかい毛を僕の世界の淵に当てた。
それから毎日、寒い時間帯になると、彼女は僕の所へ来てくれた。
「ごめんなさいね、女王としての仕事が残ってて。寒かったでしょう。たくさん温めてあげるからね」
時には、彼女以外の声が聞こえることもあった。
「これが例の卵か」
「ええ、王様。母親はこの子を置いてどこかに行ってしまったみたいなの」
「それは、かわいそうにな」
その声はとても勇ましくて、強そうな声だった。
「お母さん何してるのー?」
少し遠くから、高い声が聞こえた。
「何これ。うえ、気持ち悪いたまご!」
僕は、久しぶりに浴びせられた気持ち悪いという言葉にちょっと苦しくなった。気持ち悪いがどういう意味かは知らないけれど、その優しさのないトーンから僕の存在を否定している言葉なのだと、僕は知っていた。
僕は暗い卵の中で、自分自身のために、聞こえないフリを、聞いていないフリをした。僕は外に干渉出来ない。だから、僕が知らないフリをしていれば、それはなかったことになる。僕はぶつけられた言葉を自分の中から抹消しようとした。
だが、次の瞬間、彼女の声が聞こえた。
「なんてこと言うの!この子は今を一生懸命生きようと頑張っているのよ!そんな言葉口にするじゃありません!!」
彼女はあの声の母親なのに、僕を庇ってくれたのだと感じて、僕の心はほかほかと暖かくなった。
あの声の主は彼女にとって、僕なんかよりも大切な存在のはずなのに。僕を庇って怒ってくれるなんて。
僕は今、大切に守られながら生きている。
あー、なんて幸せなのだろう。
この幸せが、いつまでも続きますように。僕は毎日そんなことを考えて眠りについた。
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