8人が本棚に入れています
本棚に追加
庭には、立派な桜の木があった。
オオシマザクラ
名前は祖母から教わった。
祖母が結婚する時に
祖父が苗木を植えてくれたらしい。
祖父は、私が生まれるよりも前に亡くなっていて
顔も写真しか見たことはないし
どんな人かも分からない。
ただ
"祖母が大好きな桜の木をプレゼントした優しい祖父"
そんなイメージは
何百回聞いたか分からない昔話と
乙女のような表情の祖母を見て
なんとなく
幼いながらも感じ取っていた。
その葉を使って、祖母はよくおやつに桜餅を作ってくれた。
毎年、春頃から桜の葉をむしっては塩漬けにして
それを白玉粉などで作った生地と一緒に
あんこを挟めば完成。
ほんのり香る桜の香りと
塩っけにあんこの甘さが混ざる独特な味が
何より
「おいしくなあれ。おいしくなあれ。」
そう言いながら、生地をこねる祖母を覗き込んで見えた
手のひらでピンク色に光る桜餅が、まるで宝石のようで
そんな二人だけの特別感が
私はとても大好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!