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 隠り世の婚礼の儀は、現し世のそれとは勝手が違い、三日三晩に渡る大仰なものだった。  儀式三日目、儀式用に建てられたという大神御殿別邸にて。堅苦しい儀式もようやく終わり、今は宴の最中だ。銀狼と共に皆の前に並んで座った千代は、賑やかな様子を眺めながら苦笑する。 「婚礼の儀が、これほど大変なものだとは思いませんでした」 「何日続いてもいい。おまえの晴れ姿を、いつまでも眺めていられる」  大真面目にそんなことを言う銀狼に、千代は頬を染めた。白無垢に白打掛、角隠し。華やかな花嫁の装いの自分が、未だ信じられない。 (商家にいた頃は、まさかこんな祝言を挙げるなんて思いもしなかったわ) 「でも、今日で終わりなのですね」 「今宵は離さぬからな」  熱の籠った瞳で、銀狼は千代をじっと見つめる。白の紋付羽織袴。銀狼には白がよく似合う。今、同じ色に染まり、隣に座っていることが何よりも嬉しかった。 「はい。よろしくお願い致します……」  今宵は床入り。千代は小さく呟くように返した。  翌日、千代は銀狼と共に、大神川の川岸にいた。河原で屈み込み、貝殻を手に取って確かめては戻している千代を、銀狼が見守っている。  ふと、千代が銀狼を振り返った。 「私、授かったと思うのです。ここに、新たな命の存在を感じています」  腹部に手を当てる千代を見た銀狼は、獣耳を立てながら頬を染め、そしてそわそわし始める。 「では、横になって大事にしなければ」 「もう、気が早すぎますよ」  千代はクスッと笑った。今朝も銀狼は千代の身体をやたらと気遣い、一日寝ていろと主張する始末だった。布団から出てここまで来るのにも、随分と苦労したものだ。 「ありました、夫婦貝です!」  貝殻を手に取り、千代は興奮気味に声を上げる。すっくと立ち上がり、銀狼にふたつの貝を手渡した。銀狼はそのふたつの貝を合わせる。少しのずれもなくぴったりと合わさった。 「確かに、夫婦貝だな」  千代はにっこりと笑った後、銀狼に寄り添う。 「私、夫婦貝を見つけました。だから、そばにいてくださいますか?」 「……ああ。来世もその先も、ずっと」  銀狼が穏やかに笑んだ。  これからここ隠り世で、二人一緒に生きていく。やがて家族が増えた時、母として教えるのだろう。銀狼に教えられた愛を。  幸せな予感を胸に、千代は微笑みながら目を閉じた。
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