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序
その男の姿を見た瞬間、世界が変わった気がした。月光に透けて輝く銀の髪。宝石のような金の瞳が、逸らすことを許さないほど強い眼差しをこちらに向けている。夜の暗闇の中で際立つその佇まいは気高く、この世のものとは思えぬほどに美しかった。
「千代」
心地よく響く低い声が、短く千代の名を呼んだ。呼ばれた千代はびくりと身をすくませ、慎重に言葉を返す。
「……はい」
「おまえを迎えに来た」
男の額に刻印が浮かび上がる。隅切り角に、獣を象った炎の紋。訝しみながら眺めていた千代が、ハッとして頭を抱えた。
(なに!? 熱い……っ!)
千代の額にも、男と全く同じ紋が浮かび上がり、続いて身体が炎の渦に包まれた。全身が焼かれているかのように熱い。何が起こったかもわからないまま、唖然として男を見つめているしかなかった。
「これはつがいの証である刻印……18歳になったおまえを、隠り世に迎え入れる」
(かくりよ……?)
額が焼き切れそうだ。あまりの熱さに意識が遠のく。立っているだけの力すら失い、千代の身体がふらりと揺らいだ瞬間、炎が消え失せ、男の腕がしっかりと千代を抱きとめた。
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