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「!!」
細い両腕でぎゅうぎゅうに抱き締められて、俺は声も出ない。な、何だ、この展開は?
柊さんは俺の耳許で、嬉しそうに囁いた。
「ありがとう。俺、悲しくなったら、旭君が言ってくれたことを思い出すね」
「……っ」
胸の中が熱い感情で満たされる。無性に抱き締めたくなって、柊さんの薄い背中に腕を回そうとしたが、パッと身体が離れてしまった。目の前に、大きな瞳を細めて笑う、人懐っこい柊さんの笑顔がある。
「俺さ、今のバイト三年くらい続けてるけど、後輩にこんなに慕ってもらったのは初めてだよ。これからもよろしくね、旭君」
その言葉で、俺の恋心はまだ柊さんに知られていないと分かった。ほっとしたような、残念なような、複雑な心境だ。
だが、俺はもう、桜を嫌いではなくなった。これからは、桜の花が咲く度に、柊さんの「ありがとう」と眩しい笑顔を思い出して、上機嫌になってしまうだろう。
二度と桜を嫌いにならないためにも、俺は必ず柊さんを恋人にしたい。そして、毎年二人で桜を見に出かけたい。そう、強く思った。
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