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「ついにやったよ! 田中くん!」
「面倒臭い人が来たな……」
「何か言ったかね、田中くん」
「いえ、なんでもありません──ところで、そんなに慌ててどうされたんです? 教授」
「私の積年の夢だった若返りの特効薬が、ついに完成したのだよ!」
「また胡散臭いことを言い出したもんだ……」
「だから何か言ったかね、田中くん」
「なんでもありません──で、若返りの特効薬とやらはどこに?」
「コレだよ、田中くん」
「コレ──とはつまり、教授が持ってる『たまご』のことですか?」
「その通り。名付けて『若返りのたまご』だ」
「なんのヒネリもないネーミングですね……。ところで教授、僕の目にはどこにでもある鶏卵のように見えますが」
「その通り。見た目は単なる鶏のたまごだ。しかしね、田中くん。コレは1個食べるごとに5歳若返るという『若返りのたまご』なのだよ!」
「はあ……。そのような世紀の大発明を、なぜ学生の僕なんかのところに持って来たんですか。さっさと学会やマスコミに発表すべきでは?」
「そうしたいのは山々なのだがね。実はこの『若返りのたまご』は、まだ人で試していないのだよ」
「……とても嫌な予感がするんですが、気のせいでしょうか?」
「気のせいではないのだよ、田中くん。喜びたまえ、君はこの『若返りのたまご』の被験者第1号に選ばれたのだよ!」
「勝手に選ばないでください。そして謹んでお断りします」
「なぜだ⁉︎ これはとても名誉なことなのだぞ⁉︎」
「どんな副作用があるのかもわからないのに、怪しげなたまごを食べるわけないじゃないですか!」
「心配無用だよ、田中くん。事前に我が家のペットのポチで試してある。副作用は出ていない。だから安心したまえ」
「ちょっと待ってください!」
「何かね?」
「こういう時は、マウスを使うのが一般的では?」
「この『若返りのたまご』はね。最低丸々1個は食さなければ効果が出ないのだよ」
「なるほど。さすがにマウスには量が多いというわけですね?」
「そう。ポチは喜んで協力してくれたよ。ただ喜び過ぎたのか、3個しかない『若返りのたまご』を2個も食べてしまったのだよ。懐に隠していたところを、慌てて取り上げたというわけなのだ」
「ということは、『若返りのたまご』はこれが最後の1個というわけですね?」
「そうなのだよ。しかし安心したまえ、田中くん。今は絶賛、増産中なのだよ」
「ところで、ポチは若返ったのですか?」
「……絶賛、増産中──」
「ポチは、若返ったんでしょうか!」
「も、もちろんだとも! ポチは我が家に来て15年は経つのだがね。今では体長が数センチほどの、生まれたての赤ちゃんに戻ってしまったのだよ」
「ホントですか⁉︎」
「と、いうわけだから田中くん。ぜひとも君にこの『若返りのたまご』を試してもらいたいのだよ」
「そもそもなぜ僕が選ばれたんですか? 僕はまだ20歳です。どうせならもっと年配の方で試すべきでは?」
「わかってないねえ、田中くん。爺さん婆さんが5歳若くなったところで、しょせんは爺さん婆さんなのだよ」
「確かに若返ったかどうかがわかりにくいですね……」
「それにもしものことがあったらどうするのだね。私はたちまち殺人犯になってしまうではないか」
「ほら、やっぱり! 危険なんじゃないですか!」
「ギクッ! ち、違うのだよ、田中くん。この『若返りのたまご』の被験者には、君がうってつけなのだよ。というか、君にしかできないのだよ!」
「怪しすぎる」
「君はたいそう喉が丈夫だそうではないか。学食ではカレーやラーメンを、まるで飲み物のように胃袋に入れてしまうとか」
「喉が丈夫というより、大飯食いなだけで──って、教授、その手つきはなんです?」
「もちろん無料なんて無粋なことは言うまいよ」
「それはつまり、謝礼──というわけですか?」
「ぶっちゃけて言うと、そういうことなのだよ」
「……念のためにうかがいますが、おいくらほどいただけるので?」
「少なくとも、ゴニョゴニョのゴニョでゴニョ──といったところかな」
「そんなゴニョな額を、安月給の教授に払えるんですか⁉︎」
「考えてもみたまえ。絶賛増産中の『若返りのたまご』は、いずれ世界中で話題となるだろう。さすれば発明者の私の懐には当然──」
「ガッポリ、というわけですね?」
「その通り──って、落ち着きたまえ、田中くん。ヨダレが垂れているよ」
「ハッ! す、すみません! しかしどうしても不安が拭えないんですが……」
「嫌なら別に構わないのだよ。他にも被験者になりそうな生徒の目星はつけてある。例えばアメフト部の山本くんや、相撲部の鈴木くん、柔道部の高橋くん──」
「さっきは君しかいないとか言ってたくせに……」
「どうするのだね? 奨学金の返済が大変なんじゃないのかね?」
「グッ……。足元を見やがって!」
「さあさあさあ。どうするね、田中くん」
「やります! やらせていただきますよ!」
「そうかね! 君ならそう言ってくれると思っていたよ! と、その前に注意点がある」
「なんでしょう」
「『若返りのたまご』は、実に繊細にできているゆえ、そのままの状態で食してもらわないといけないのだよ」
「そのまま……」
「それにコレは熱に弱いため、茹でたり焼いたりなんてのはもってのほか、というわけなのだよ」
「まいったな……実は生卵は苦手なんだよな……」
「何をブツブツ言ってるのだね? 謝礼はゴニョだよ、ゴニョ」
「ええいっ! わかりました! やりましょう! では、早速──」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちたまえ! 田中くん!」
「はい?」
「君は一体、何をしようとしているのだね⁉︎」
「何って、机の角で『若返りのたまご』を割ろうと──」
「人の話を聞いてなかったのかね、君は! 『若返りのたまご』はそのままの状態で食すのだよ!」
「それってまさか……」
「殻ごと丸呑みにしないと! うちのポチなんて、何も言わずに丸呑みしたのだよ!」
「教授」
「何かね?」
「ちなみにペットのポチというのは犬では……」
「ニシキヘビなのだよ」
「で、1個食べると5歳若返る『若返りのたまご』が、全部で3個あったわけですよね?」
「ああ。しかしポチに2個食べられてしまったのだよ」
「15歳だったポチが、まるで生まれたての赤ちゃんのように小さくなってしまったんでしたっけ?」
「ああ、その通り」
「もしかしてポチは、『若返りのたまご』を3個食べたんじゃないですか?」
「んんっ⁉︎」
「だからポチは15歳若返ってしまい、生まれたての赤ちゃんに戻ってしまったのでは?」
「……ということは、これはポチの……?」
終わり
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