満開の桜など見たくなかった

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 俺の彼女は数年前に病気で亡くなった。元々体が弱く、入退院を繰り返していた。  彼女との出会いは俺が盲腸で入院していた時に出会った。一目惚れだった。俺は病院服であるのも忘れて告白してしまった。後に彼女に『あれは恥ずかしかった』と言われてしまったほどだ。  その後は案の定断られた。でも俺は諦められなかった。俺は入院が終わっても彼女のお見舞いに行き、告白した。今考えればストーカーだと思う。そうして何回も告白していたら彼女の方が折れた。 「友達から、よろしくお願いします」  俺は病院内にも関わらず喜んではしゃいでしまった。それを看護師さんに怒られてしまったことに二人で笑ってしまった。  そうして俺は変わらず毎日お見舞いに行った。今日仕事であった面白い話や新しくできたお店の話、彼女の好きな物や退院したら行きたい場所などいろいろ話した。  何週間か入院していた彼女は明日、一時的に退院するらしい。俺は自分のことのように喜んだ。俺のその喜び具合に彼女は笑っていたが。  俺は彼女が退院する日、彼女が好きだと言っていた花を持って彼女の前に膝跨いた。 「俺と付き合ってください!」  初めて彼女に告白した日のように俺は彼女に告白した。彼女は驚きで目を見開いていたが次の瞬間、花が開いたような笑顔で 「よろしくお願いします」  と答えてくれた。俺は嬉しくて勢いよく抱きついてしまった。彼女はよろけそうになっていたが笑っていた。  それからは毎日が幸せだった。彼女が行きたいと言っていたところに行ったり、俺が彼女を連れて行きたいところに行ったりして楽しんだ。  でもある日、また彼女は病院に入院することになってしまった。だけど俺は変わらず楽しい話をしに毎日彼女のお見舞いに行った。全然苦ではなかった。また退院できる日を願って退院したら行きたいところを話し合った。  けれど神様は意地悪だった。  彼女はどんどん衰弱していった。彼女は一日の大半を眠って過ごすようになってしまった。それでも俺はお見舞いをやめなかった。  その日は彼女が入院して初めてお見舞いに行けなかった日だった。この日は仕事が忙しくてお見舞いに行けなかった。なんとか仕事を終わらせて彼女の病院に行こうとした。  すると電話がかかってきて出てみると彼女が入院している病院だった。俺はそれを聞いた瞬間走った。走り続けた。走って、走って、走って。ようやく病院に着いた頃には彼女は息を引き取っていた。  俺は涙が止まらなかった。そうしてしばらく病院の待合室でボーッとしていると看護師から桜の木のお墓というものがあると聞かされた。俺はすぐにそのお墓の登録をした。  そして彼女のお墓に桜の木が植えられた。だが、数年経った今でも桜は咲いていない。否、咲かせたくなかった。
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