少年

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少年

壁を見つめている中年の男は、ただぼうっとしているだけで動こうとしない。一体どうしたのだろう。スマホでも見ているのか、何か落としたのか。 変な奴 首を捻りながらも危ない類いの人間かもしれないため、無言で立ち去る。相変わらず空の星は見えないが、灰色の雲も見慣れれば綺麗だ。綺麗といえば、好きな女優のドラマが確かはじまっていたのではなかったか、とスマホを弄りながら思った。 前を見ずに歩いていると、前から小走りに駆けてくる足音が聞こえた。 通り魔 幽霊 なんだ? そんな恐怖に身を固くしていると、果たして小学生位の少年だった。 「お母さんが…動かないよ」 「え、動かない?救急車呼んだのかな?」 「救急…?呼んでない」 おそらく同じ賃貸アパートから出てきたのだろう。肩で息をきらしている様子から、母親が倒れたのだろう。 「部屋の番号は?」 「803」 最上階ですか 二階の自分の部屋よりは家賃が高そうだ。 「名前聞いてもいい?」 「小笠原。お兄ちゃんは?」 「201の山田です。そっか。救急車呼んでおくから、部屋に戻ってて」 「うん。お兄ちゃん、ありがとう!」 「いいえ~」 無邪気な笑顔に心洗われるが、責任重大だ。スマホを握りしめ、119を押す。待つこと暫くしてつながり、住所等をヒアリングされた。現在混み合っているため少し時間がかかるとの事だった。冬の夜中なので、体調を崩す人が多いのかわからないが、803の小笠原少年に約束した手前、歯痒く感じたのだった。
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