8人が本棚に入れています
本棚に追加
少年
壁を見つめている中年の男は、ただぼうっとしているだけで動こうとしない。一体どうしたのだろう。スマホでも見ているのか、何か落としたのか。
変な奴
首を捻りながらも危ない類いの人間かもしれないため、無言で立ち去る。相変わらず空の星は見えないが、灰色の雲も見慣れれば綺麗だ。綺麗といえば、好きな女優のドラマが確かはじまっていたのではなかったか、とスマホを弄りながら思った。
前を見ずに歩いていると、前から小走りに駆けてくる足音が聞こえた。
通り魔
幽霊
なんだ?
そんな恐怖に身を固くしていると、果たして小学生位の少年だった。
「お母さんが…動かないよ」
「え、動かない?救急車呼んだのかな?」
「救急…?呼んでない」
おそらく同じ賃貸アパートから出てきたのだろう。肩で息をきらしている様子から、母親が倒れたのだろう。
「部屋の番号は?」
「803」
最上階ですか
二階の自分の部屋よりは家賃が高そうだ。
「名前聞いてもいい?」
「小笠原。お兄ちゃんは?」
「201の山田です。そっか。救急車呼んでおくから、部屋に戻ってて」
「うん。お兄ちゃん、ありがとう!」
「いいえ~」
無邪気な笑顔に心洗われるが、責任重大だ。スマホを握りしめ、119を押す。待つこと暫くしてつながり、住所等をヒアリングされた。現在混み合っているため少し時間がかかるとの事だった。冬の夜中なので、体調を崩す人が多いのかわからないが、803の小笠原少年に約束した手前、歯痒く感じたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!