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共同作業
弱冠の心細さもあり、蒔田さんと共にコンビニへ向かう。女性にしては165㎝位と長身な彼女だが、目線は少し下にある。オフィスエリアなのでスーツ姿や、オフィスカジュアルが目立つ中、ビルの清掃員の女性が、老年の警備員と立ち話している。普段であればみられない光景だ。勤務している時間だからだ。
「人が倒れてるって言われてもね。救急車呼ぶくらいしか出来ないし。なかなか来ないらしいけど」
「困るよねぇ」
どこも大変なのか
コンビニへ近付くと、ここも普段よりごったがえしている。
「カオスですね」
「やばいですね」
「手分けしますか。私が食糧買うので、山田さんは日用品を。後で落ち合って清算しましょう」
「日用品ですね。えっと…わかりました。わかる限りで」
「大丈夫です。宜しくお願いします」
「はい」
一度バラけると、沸沸と闘志がみなぎってきた。
やらねばやられる
少し違うかもしれないけれど、こういう場でも生存競争というものは存在する。蒔田さんの背筋の伸びた後ろ姿を見送り、自分も洗剤、ペーパー、歯ブラシ等の並ぶ棚へ移動する。同じく険しい眼差しの人々の波をかき分け、緑のかごへ適当に放り込む。
歯ブラシも二本ずつ四本とか、新婚みたいだ
既婚者の気分を味わいながら、買い物を続ける。レジで会計を済ませるコンビニを出ると、蒔田さんが遅れてやってきた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。狙ってたの取られちゃいました」
「え、狙ってたのってなんです?」
「新発売の猫の形のケーキ」
「ははは。猫好きなんでしたっけ?」
「はい。あ、でもそれどこじゃなかったんですけどね。そこのベンチで清算しましょう。現金あります?」
「はい、少しあったと思います」
お互い中々の買い物の腕前だった。パン、おにぎり、トイレットペーパー、箱ティッシュ、洗剤類等。籠城するのか不明だが、一週間はいけそうだ。そして品物を分け終わったと思った所で、レジ袋の底にある品物に首をかしげた。フライパン、そして長い傘だった。
「これは?」
「護身用です。なんて、ちょっとホラー映画の見すぎかなぁ」
「あぁ!傘って金属だしね。あるあるだ」
「そうそう」
「じゃあ、行きますか」
「あの、山田さんも私もY市民ですよね?」
「そういえばそうでした」
「連絡取り合って、状況確認しましょう」
「はい。会社いつから来ます?」
「まだわかりませんけど、これだし」
見せられたスマホのニュースには、『緊急事態宣言』の文字が踊っていた。
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