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僕は考えられなかった。彼は今までの黒づくめの男とは別人のような気配を醸し出している。
「あちゃー、憑霊(つきれい)させちゃったか…。」
「憑霊…?」
「そう、憑霊っていうのは、霊とか妖怪とか神とかを自分の体に入れて力を得る秘術だよ。」
「俺はビリーというアメリカ開拓時代の最強のガンマンを憑かせている。」
「これは苦戦しそう。タイガは下がって。」
「うん。」
僕は下がるとスファーは剣を抜いた。黒づくめはどんどん撃つがスファーには一切当たらない。
「へ、これでも食らいな嬢ちゃん。〈アメリカン流鏑馬〉」
すると彼の移動速度が常軌を逸するほど速くなった。そして弾丸が飛んでくる量もスピードも速くなった。スファーは剣を振り回して弾丸を叩き落としていたが、防御しかできていない。
「…。どうしよう…。」
スファーは必死に考えていた。振り回す剣の速度が遅くなってきた頃だった。
「ぐっ…。」
黒づくめの男の胸にナイフが刺さっていた。
「今だ!スファー!」
「うん!」
彼女は剣を彼の首にかけた…。
戦いが終わったあと、僕らは街から出ていた。
「ねえ、タイガ!危ないでしょ。今回はたまたま当たったけどもし外していたら…。」
「ご、ごめん。僕も力になりたくて。」
「私は君を守らないといけないの!大丈夫、一人で戦えるもん!」
スファーの顔はまるでわがままを言う子供のようだった。
「でも…。ありがと。」
スファーはそう言い残すと自分の天幕へ帰ってしまった。
僕らは山を越えていた。山には山賊がいるようなので注意していかなければならない。
「ねえタイガ。」
「どうした?」
「ちょっと休もう?」
「うん、いいけど…。」
するとスファーはその場で座り込んでしまった。
「ごめんね、私高山は少し苦手で…。」
彼女はそう言った。しかしここはそこまで高い山ではない。もしかすると今日は調子が悪いのかもしれない。
「ここで一晩明かす?」
「ううん、山は越えたい。」
そういうとスファーは立ち上がって歩き出した。
ここからは下り坂になっているので結構楽になってきた。スファーの顔色も良くなってきた。僕はほっと一息ついた。その瞬間、僕に向かって矢が飛んできた。
「誰だ!」
僕は矢が飛んできたところに向かって呼びかけた。
「まさか…友希がここにくるとは…。」
「あちゃー…。」
「友希?」
謎の声の主は姿を見せた。正体は体つきがいい青年だった。
「友希?」
「その少女の名前だ。」
するとスファー…友希は少し困った顔をした。
「ごめんね、タイガ。今まで本名隠していて。」
「…。で、この男は何者?」
「私の師匠のライバル。なんか私のことも嫌ってる。」
「…。スファーは元気か?」
そういえばスファーは友希の師匠の名前と言っていた。
「最近会ってない。」
「ふん、ここは俺の縄張りだがそれを知ってるのか?」
「うん。もちろん。」
「ならなぜここに?」
「いや、バレないかなってね。」
「…。早くここから降りろ。」
友希は山から降りた時に僕に話しかけてきた。
「これからは友希って呼んでいいよ。」
「ならお言葉に甘えて。」
「それじゃ今日はここら辺で…。」
友希は泊まろうかと言おうとしたのだろう。しかしそれは大勢の人の気配で遮られる。
「これは…旅人狩りかな…。タイガ、戦える?」
「もちろん。」
俺はナイフを取り出して構えた。奴らは馬に乗っているのか、蹄の音が僕の耳の中をこだました。
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