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「大丈夫? 酔ってない?」
私は肩からかけているトートバックに向かって声をかけた。
「大丈夫だ」
私の心配もよそに、お兄ちゃんはトートバックの脇から顔を出して辺りを伺っている。
結局自分も行くと頑として譲らなく平行線だったので、とりあえず場所の確認だけ二人でして帰ってくるというこで妥協した。鞄の中に何重にもタオルを敷いてその上にのせて来たのだが、揺らさないように気をつけて歩くのであまりペースは上がらない。
準備に手間取り、昼を過ぎた平日の住宅街には人気もなく、気にせず話すことが出来るのでそれは良かった。ゆっくりと女の子の後を追いながら、聞きそびれていたことを訊ねる。
「そういえば、呪われる心当たりは何かあるの?」
「そんなものあるわけないだろ」
呆れたように言うお兄ちゃんに私は「でも」と口を尖らせた。
「ご神木の枝を使ってまで呪うなんてかなり本気だよ」
「知らぬ間に買っているのが恨みというものじゃ。他者の思惑など聞いても分からぬことが多いのだから、考えるだけ時間の無駄じゃ」
私達の会話を聞いていた女の子がなんてことないようにそう言った。お兄ちゃんも同意するように頷く。
「たしかに、呪いをかける奴なんて何してくるか分からないからな。咲、万が一があればその護符を使えよ。呪いとかには効くはずだ」
「これ、本当に何なの?」
私はバックの中に無理やり入れてこさせられた、文字が絵のように書かれているの怪しげな紙の束を見た。
「ま、お守りみたいなもんだ」
今まではただの中二病だと思っていたけど、こともなげに言うお兄ちゃんに疑問がつのっていく。
「何でこんなものまで持ってるの? お兄ちゃんって一体――」
私が言いかけたところで、女の子が「ここじゃ」と言って一軒の家の前で止まった。
「えっ、ここ?」
「そうじゃ。ここから妾の枝の気配がしておる」
私は女の子の示す家の前で立ちつくしてしまった。
「……なんで美佳ちゃんが、お兄ちゃんを呪うの?」
「ここ立木の家なのか」
思わず口から出た言葉にお兄ちゃんが聞いてくるので、私は何とか頷いた。
美佳ちゃんは私の友達でお兄ちゃんと一緒の部活に入っている。そこで何かお兄ちゃんと揉めていたのだろうか。でもそんな様子もなかったはずだし、お兄ちゃんも心当たりがないようだ。私達が考え込んでいると、じれたように女の子が口を開いた。
「知り合いならば話も早かろう。様子見といわず、とっとと取って来ぬか」
「……そうだな。とりあえず話を聞きに行ってみるか。あいつなら事情を説明すればそのまま受け入れるはずだ」
「もう、そんな簡単にいくわけないでしょ。とりあえず私が話をしてみるからお兄ちゃんは隠れててね」
お兄ちゃんがバックの中に身を隠したのを確認してから、私は覚悟を決めインターフォンを鳴らす。しばらくすると、ちょうど家にいた美佳ちゃんが顔を出した。
「咲、どうしたの? 今日何か約束してたっけ~?」
「急にゴメンね。ちょっと、聞きたいことがあって……」
お兄ちゃんはああ言っていたものの、不思議そうにしている美佳ちゃんにどう切り出していいか迷う。いきなりうちのお兄ちゃんを呪ったのなんて聞いたら、私がおかしくなったと思われてしまう。
「立木、お前に話がある」
「え? 山代先輩も来てるの?」
「ちょっと、お兄ちゃん! 勝手にしゃべっちゃダメじゃない!」
いつの間にかバックからお兄ちゃんが顔を出していた。慌てて顔を押して隠そうとしたが、一足遅かった。
「え~と……山代先輩?」
困惑した美佳ちゃんの視線がうさぎを捉えている。
「ごめん、事情を説明するから中に入れてくれないかな……」
私は疲れたようにそれだけ言うと、説明はもうお兄ちゃんに丸投げすると心に決めた。
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