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なんとか美佳ちゃんの部屋に入れてもらうと、向かい合って床に座った。テーブルの上にのったうさぎのお兄ちゃんをまじまじと見た美佳ちゃんは感心したようにしきりに頷いている。
「山代先輩、また厄介ごとに巻き込まれたんですね~」
「なに他人事みたいに言ってるんだ。今回の原因はお前だ」
「私はなにもしてないですよ~」
お兄ちゃんがうさぎになったといっても動じず、普通に会話している美佳ちゃんに私のほうが驚いてしまった。そんな私を見て、美佳ちゃんはこともなげに言う。
「山代先輩ならこのくらい日常茶飯事だよ。先輩が霊感体質? だから変な心霊現象に遭うこと多いし。私が部活に入るきっかけも心霊絡みだったから、部活で一緒に居るうちになれちゃった」
「うっそだぁ。うちにいる時はそんなの見たことないよ」
「母さんも咲も無自覚の除霊師だからな。変なものは寄ってこない。そんなことより、立木。なんで俺を呪ったんだ」
聞き捨てならないことをさらりと言って、お兄ちゃんは美佳ちゃんに詰め寄る。詳しいことを今すぐ聞きたいが、呪いのことが先だとぐっと我慢する。
「え~と。呪いって何のことですか? 私そんなことしてませんよ~」
「玉依大社の桜の枝、折っていかなかったか」
「何で知ってるんですか!」
「その反応、やっぱりお前が持ってるんだな。その枝のせいで今俺はこんな姿になってしまってるんだ。いいから出せ!」
お兄ちゃんが有無を言わさず詰め寄ると、美佳ちゃんは渋々立ち上がった。机に向かうと一番上の引き出しを開け、何かを手に戻ってきた。それは桜のつぼみがついた枝でピンクのリボンと黒い糸が巻き付けられていた。リボンの結び目には黒い染みのような丸い点がついていた。
「これが呪物? なんだか思ったよりかわいいね」
「呪物って何のこと。これは恋まじないなんだよ。穂高先輩と両想いになれるように、って縁結びで有名な桜の枝を使ったの」
穂高先輩もたしかオカルト部だったなと考えていると、お兄ちゃんは別の部分に注目していた。
「この黒い糸はなんだ」
「穂高先輩と私の髪の毛ですよ。更に縁を強められるように私の血も一滴」
頬を赤らめて言う美佳ちゃんに、知らなかった友達の一面を知り少し引いてしまう。お兄ちゃんは頭痛を押さえるように前足を頭にやっている。
「どっから取ってきたか知らないが、たぶん俺と穂高の髪の毛を間違えて使ったんだろ。だから呪いが俺の方に来たんだ」
「うっそ!? これ山代先輩のなんですか! ばっちいなぁ。もういらないので持って帰ってくださいよ!」
美佳ちゃんはお兄ちゃんの髪と知って嫌そうに差し出した。その態度にゆっくりと顔を上げたお兄ちゃんは、目を細めて笑っていた。うさぎなのに怒りの感情が隠しきれていないその顔にひやりと背筋が凍る。
「こんな呪いとか怪しいものに手を出すなって、ずいぶん言って聞かせたのにまだ理解してなかったようだな。元に戻ったら徹底的にしごいてやるから覚悟しろよ?」
お兄ちゃんが低い声で楽しそうに言うと、般若と正面から対面した美佳ちゃんは「ひっ! もうしません! もうしませんからご勘弁を~!」と飛び上がったがもう遅かった。
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