夏空の果て

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そこで夏奈は息をのみ込んだ。沖田総司の写真?本当なのだろうか。 デタラメを本の表紙にはできないであろうし、本物なら何故に広まっていないのだろう。 「そもそも、森本って隊士いたっけ」 ようやく深呼吸をし、落ち着きを戻した夏奈の目に『明治新選組まぼろし録』と書かれた本の表紙が確認できた。著者は桜田道彦とある。裏表紙をめくると出版元のファイヤースポーツ新聞社出版部と、発行年が昭和五二年というのが確認できた。 昭和…一九七七年か、と、平成生まれでも歴史好きで史学科二年生の夏奈はすぐにわかる。 「昭和の新選組本ってディープだよね。それにしても総司の写真かぁ」 ワンルームで一人つぶやくと、テーブルの上に置いたスマホを手にした。悠子に本が届いたことをメールしなければと思ったのだ。もちろん写真のことを聞くのだ。 すぐに悠子からの返信が来た。「写真の件ですが」というタイトルのメールを開く。 ──結論から言うとすべてが不明です。作者の後追いコメントもなく、写     真の出処も不明で、森本という隊士も確認されていません。 私は、この表紙も含めて“小説”なのだと思っています。明治後の新選組を扱った小説はまだ珍しい頃でしたし、面白い内容だと思います。読んでみてくださいね── なーんだ。そう思うと写真の細身の男性は何だか頼りなげだ。やや猫背だったと伝わる沖田総司は背筋が発達していたのではないかと、夏奈は思っている。 夕食を終えて用事をすますと早々とベッドに横になり『明治新選組まぼろし録』を手に取った。一気に読みたかった。 物語は板橋の近藤勇の処刑場面から始まり、すぐに箱館の土方歳三のシーンになる。 「えー、会津や宇都宮は無しなの?ありえない。あっ、森本、出てきた。十七歳の隊士、市村鉄之助的な感じ?えーえー、沖田総司の写真を土方歳三に託されるの?」 やがて夏奈のつぶやきもモジョモジョになり、本を開いたまま眠りにおちていた。
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