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球速120kmの豪速球
碧がゆったりとしたモーションからピュッとストレートを投げる。キャッチャーの構えた通りの外角低めのボール球を見送ったバッター。球速116kmが表示されると、球場がどよめきに包まれた。
2球目も外れ、3球目にバッターが強振すると、大ファウルがスタンドに突き刺さった。どよめきはため息に変わる。このままでは長打を浴びるのは時間の問題だと、観客の誰もが感じた。
碧が4球目に投げたスローカーブが球速67kmと表示されると、再びどよめきが起こる。空振りしたバッターが首を振る。これで2ボール2ストライク。
大観衆が碧の一球一球に釘付けだった。
ここでキャッチャーの田中が真ん中低めにミットを構えた。碧は「ふぅ」と息を吐き、ゆったりとしたモーションから、ミットを目掛けて渾身の力で投げた。
120kmのストレートが田中のミットに収まる。バッターはピクリとも動かなかった。まさかまさかの見送り三振に大観衆は「おお~!」と驚愕し、拍手が沸いた。
ベンチに戻るバッターがすれ違い様に最後のバッターに耳打ちした。
「エグい。メチャクチャ速いぞ」
「マジで!?」
「ああ。あんな豪速球、見た事が無い。まったく動けなかった」
ゴクリと唾を呑み込む最後のバッター。決勝戦の相手が境南高校に決まってから、最速158kmの豪腕投手を攻略する対策を練って来た。いつもより手前でピッチャーが投げてコンパクトに振り抜く打撃練習に手応えを感じていた。
強打が売りのチームが8回まで上手く抑え込まれて来たが、噂の豪腕投手が登板したと思ったら、突然女子に変わって唖然となった。
試合が再開されて1球目に球速116kmと表示された瞬間に、「この試合は貰った」と思った。楽勝でランナーが出た後、自分が同点にする。否、ホームランで一気に逆転してやるつもりだった。それなのに......。
動揺する心を悟られ無いように、ブンブンと素振りをする。マウンドで腕を伸ばしている小柄なピッチャーをグッと睨むとバットを構え、「さあっ、来い!」と吠えた。
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