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社長の推理は半分不正解だったが、半分は当たっているのかもしれなかった。8年前の彼女は京都に旅行に行ったきり、姿を消したのだ。
「彼女は、誰と旅行に行ったのでしょう?」
と、店主は尋ねた。
「学生時代の友達と遊びに行くって話だったらしいです」
さっきまで社長が座っていた席に、8年前の彼女そっくりの彼女が座っている。
「旅行先で、何か事件に巻き込まれたのでしょうか?」
「わかりません、そもそも姉は、旅行先に辿り着けたのでしょうか」
季節はもう冬であった。少しだけ暖かい日で、まだ遠い春の訪れを確かに感じさせる日であった。桜の植え替えの準備は着々と進んでおり、あとは樹木自体の到着を待つだけとなっている。
店主は、彼女がうつむいてるのに気付いた。どうしたんですか、と声をかけると、彼女は消えそうな声でこうつぶやいた。
「私、19になってしまうんです」
彼はじっと彼女を見つめた。
「姉の年齢を超えてしまうのが怖いんです。姉のことが何もわからないまま、18のこの時が終わってしまうのが」
店主は少し考えていた。そして、唐突にこう切り出した。
「散歩をしませんか」
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