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ディーターは白い手袋を魔導士のローブの胸ポケットから取り出すと、両手にしゅっとはめた。変死体の脇に膝をつき、手をかざす。
彼は変死体に魔力が残されているかいないか、それを確認しているのだ。
残留魔力――。その場に残り漂っている魔力のことである。魔力が強い者であればあるほど、魔力は長時間漂っている。これだけの死体が魔力によるものであれば、確実に残留魔力を感じられるはずだ。
この状態で何も感じなければ、これは魔法や魔術が関わっていない案件と判断できる。だが、少しでも魔力を感じれば、魔法や魔術によって殺されたという確かな証拠となる。
「エル。大当たりだな」
ディーターはくるりと背後にいるアニエルカを見上げた。
先ほど、二人きりであれば愛称で呼んでもいいと言ったはずなのに、彼はそれをすぐに破った。だが、そんな悠長なことを言っているような場合ではないのだろう。
「何がだ」
なんとなく雰囲気から察していた。それでもそう確かめずにはいられない。
「ギンギンと残留魔力を感じる」
ギンギンと目を光らせて、ディーターは言った。
「そうか」
アニエルカは目を伏せて呟いた。やはりこの殺人は魔術によるものだ。『なんとなく』が『確信』に変わった瞬間でもあった。
「ディー。すべての調査が終わったらこの遺体を修復して欲しいのだが……。可能だろうか」
アニエルカは躊躇いがちに尋ねた。これだけの損傷となれば、修復も難しいだろう。
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