1.

6/7

50人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「ほらよ、終わったよ」  修復を終えたディーターは、女性の手を彼女のお腹の上で組ませた。ただ眠っているようにしか見えない女性。先ほどまでの惨状など、無かったかのように。 「やっぱり、こっちは赤ん坊だったのか」  ディーターの言葉を聞いたアニエルカは、赤ん坊の遺体をそっと抱き上げた。小さいのに、冷たくて重い。  アニエルカは赤ん坊に向かって「すまない」と小さく呟いた。もしかしたら、この呟きは、ディーターにまで聞こえてしまったかもしれない。だが、恥ずべき言葉ではない。アニエルカの本音なのだ。彼女は抱き上げた赤ん坊を、母親の遺体の胸の上にそっと置いた。赤ん坊を抱きかかえるかのようにして眠っている女性。  ディーターは眠る母子を見て、眉をひそめた。 「おい、エル」 「なんだ」 「この女性……。誰かに似てないか?」  アニエルカも眠る母子を、眉間に深く皺を刻んで見下ろした。  金色の豊かな髪を持つ母親。閉じられた瞳の色は確認できない。だが、なんとなく面影を感じられる。 「これは……」  アニエルカも息を呑む。恐らく、彼も同じ考えなのだ。  アニエルカは髪を黒く染めている。だが、地毛は金髪だ。このように髪を短く切る前は、この母親のように長くて豊かな髪であった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加