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 右手を力強く握りしめる。考えれば考えるほど、過去に囚われてしまう。 「おい、ハンク」  気持ちを切り替えて、部下の一人の名を呼ぶ。 「悪いが、この人たちを安置所に運んでくれ」  遺体の修復が終わったのであれば、母子をここに置いておかなくてもいいだろう。きちんと家族に引き渡し、別れの時間を与えるべきである。 「承知しました」  ハンクは適当に騎士を見繕って、母子を安置所へと運ぶ準備をする。  残った騎士たちは、アニエルカと共に現場の清掃と片付けを担当する。  それが落ち着いたころ、ディーターはちょいちょいと右手を振って、アニエルカを隅に呼び出した。 「なんだ?」  私は忙しいのだ、と口にしたいところだが、それをぐっと耐えた。このように彼から呼び出されるのは不本意であるため、それを知らしめるために、わざと不機嫌な表情を作る。 「いんや、さっきの報告がまだだったな、と思っただけなんだけど」  言い訳するかのようにディーターは口を開いた。  そのような理由であれば、仕方ないだろう。まるでアニエルカ自身に言い聞かせるかのように心の中で呟いてから、眉根を寄せた。 「お前から、残留魔力があったという話は聞いたが?」 「ああ。だが、オレはあれと同じ魔力を、他の死体でも感じたことがある」 「なんだと?」  アニエルカの右の眉尻がピクリと動いた。ディーターの言葉が正しいとしたら。 「連続殺人、とでも言いたいのか?」  目を鋭く細め、彼を睨みつけた。 「ああ。しかも魔術による、連続殺人事件だな」  ディーターは彼らしくもない真剣な顔で頷いた。
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