ep.6

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「アザゼル様!」 「な、なんだよイザベラ。お前から呼び出すとか」 夜も更け、遅くまで活気に溢れていた街も今は静まり返っている。灯りも消え、まるでこの街に私達以外いないかのような錯覚を起こす。 それぞれの部屋へと入る直前、私はアザゼル様に後で出てきて欲しいと伝えた。その時イアンは居なかったから、彼を誘えなかったのは残念だ。 「しかも俺だけとか、もしかしてお前…」 「はい、どうしても今日お伝えしたくて!」 「そんな急に…お、俺にも心の準備っつーものがだなぁ」 「星を眺めるのに心の準備がいるのですか?」 アザゼル様は夜が苦手ではなかったと思ったのだけれど、違っただろうか。首を傾げる私に、アザゼル様は何故か金の瞳をぱちぱちと何度も瞬かせた。 「星…?」 「はい、星です!今日はいいお天気でしたので、きっと綺麗な星空が見られるのではと」 「なんだよ、星かよ。俺はてっきり」 唇を尖らせる彼を見て、思わずしょんぼりと肩を落とす。 「以前アザゼル様に満点の星空を見せていただいた時、私はとても嬉しかったのです。だから今度は私が、アザゼル様にお返しをしたいと思ったのですが…ごめんなさい」 「い、いや謝んな!悪かった、すげぇ嬉しいから!」 「本当ですか?」 無意識に上目遣いで彼の瞳を覗き込むように見つめる。アザゼル様は数度咳払いをした後、いつものように優しく私の頭を撫でてくれた。 「見てください、あそこ!一番大きく光っています!」 「ああ、そうだな」 「とっても綺麗…」 澄んだ漆黒の空にきらきらと散らばった星を、アザゼル様と二人で眺める。ここは街中だから、深林の時のように掴めそうだと思うほど近くはない。 けれどそれでも、今この空間がとても特別なものに思えた。 「今までは、上なんて見上げる余裕がありませんでした。私は随分もったいないことをしていたんだと、アザゼル様に教えていただきました」 「これからは幾らでも見ればいい」 「あの…、アザゼル様」 照りつける太陽が輝く季節が過ぎ、外套を羽織っていても肌寒く感じる。けれどそれに相反して、私の頬はかっかと熱っていた。 心臓が幾つもあるように、どくどくと煩い。 「私はこれから、色んなことを経験したいです。見たことのない景色も、感じたことのない空気も、食べたことのない味も、どんな世界が私を待っているのか、想像するだけでわくわくします」 「ああ、お前は自由だ。望むことはなんだってできる」 「その隣に、ずっといてくださいますか?」 勇気を振り絞った言葉に、アザゼル様の瞳が揺れる。まるでそこに星を埋め込んだように、きらきらと金色に輝いている。 (好き過ぎて、胸が苦しい) どうして一瞬でも、この人から離れることができるなんて思ってしまったのだろう。 どれだけ自由でも、アザゼル様のいない世界に色は灯らないのに。 「お慕いしております、アザゼル様」 「イザベラ…」 「とても…とても好きです」 この感情は、とても不思議だと思う。口にした私の方が、涙が出るほどに幸せだなんて。 「イザベラ」 「は、はい」 「俺を殺す気か」 「は、はい?」 もちろん、そんな気はないに決まっている。何か失言でもしてしまったのかと焦ったけれど、私に触れた彼の指は驚く程に熱かった。 「可愛過ぎんだよ」 「えっ!あ、あの」 「俺も、好きだ」 指よりも、更に熱い。アザゼル様の腕に抱き締められ、私の思考は完全に止まってしまう。 「愛してる」 「…はい」 彼の綺麗な黒髪が、私の頬にかかる。アザゼル様の全てが愛おしくて、私は瞳を閉じ彼に身を委ねた。
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