ep.11

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その衝撃は空間さえ揺すぶり、蜃気楼のように歪む。ハネスと対峙しているアザゼルは、余裕の笑みで攻撃を受けていた。 「前やった時より強くなったな。グロウリア」 黒い魔力の塊を相殺させながら、アザゼルが問いかける。普段の表情からは想像できない程に、ハネスは顔を歪ませていた。 「お前如きが知った口を…っ」 「俺を捕らえた時点でさっさと殺しときゃ良かったんだ。そうしたら、こうはならなかったのにな」 「黙れ下賤が!いい気になりやがって…!死ね!お前なんか死ね!」 内側から溢れる憎悪が力となり、ハネスの魔力を一段と跳ね上げる。これを避ければ他に被害が及ぶと、アザゼルは先程から全てを受けていた。 しかし今の彼はイザベラの加護を受けている。彼女自身も無意識のうちに、治癒とは別に聖なる力をアザゼルに分けていたのだ。 「ぐぁ…っ!」 「ぎゃあっ!」 魔力の衝突に巻き込まれ、多くの団員が命を落としている。この惨劇を見たイザベラの心情を思い、アザゼルは舌打ちをした。 なるべくなら被害を抑えたいところだが、そこまでの余裕はない。イザベラとレイリオが階下へ駆けていくのを横目に見やりながら、アザゼルは、再度声を張り上げた。 「なぁグロウリア。もう止めるって選択肢はないのか?どうせお前は、俺には勝てない」 「くそが、口を開くんじゃない!」 「何をそんなに焦ってんだ。お前はあの男から、正式にこの魔術師団を継いだんだろ?だったらもう、俺を気にする必要もない」 淡々と口にするアザゼルとは対照的に、アザゼルハネスの顔は益々憎悪に歪んでいく。 彼は心の底から、アザゼルのことが嫌いだった。憎かった。戦いに敗れた時は、死にたいと思う程の屈辱だった。 ── 「グロウリア。お前は結局、アザゼルを越えることはできない」 先代の団長である父から言われた時、ハネスは発狂しそうになった。たまたまたった一回、敗れただけ。アザゼルの存在を知ったハネスは、彼を殺そうとして返り討ちにあった。 そしてそれ以降アザゼルは姿を眩まし、長い間見つけることができなかったのだ。 「しかしあの男の母親は、魔力も持たない卑しい人間ではないですか。貴方もあの男を不要だと思ったから、捨てたんだ」 「今となっては実に惜しいことをしたと悔やんでいる。アザゼルが今ここにいれば、この国を支配するのは間違いなくあやつだったろう。グロウリア、お前ではなく」 握り締めた掌から、血が滴り落ちる。失望したように自分を見る父親のことが、彼は信じられなかった。 「あれは何かの間違いです。あんな底辺を這いつくばっているような男よりも、僕の方がずっと」 「所詮お前では勝てない。優秀な兄にはな」 (優秀な兄、だと…?) そんなものは、今まで一度だって認めたことはない。ハネス家の男児は皆例外なく、金の瞳に漆黒の髪。あの男も、確かにそうだった。だが、だから何だと言うんだ。 普通の母親から産まれすぐに捨てられた、魔術師の出来損ないごときが。 幼い頃から、血反吐を吐く程に厳しく躾けられてきた。愛情を注がれたことなど、欠片すらなかった。そうしてやっと、ここまで辿り着いたというのに。 たまたま存在が知られただけの、取るに足らない男。そんなヤツがふらりと現れ、自分から全てを奪い去ろうとしている。 ハネスはにやりと口角を上げ、父親に告げる。 「お前は見る目を持たない無能だ。死ね」 そうして彼は父親を殺し、西ヒスタリア魔術師団の団長の座を手に入れた。血眼になりアザゼルを探すが、その尻尾を掴むことはできなかった。 「アレイスター・グラファト。実に食えない男だ。あの男のせいで、長らくお前を見つけられなかった。お前を殺した後、あの男にもちゃんとお礼をしないとね」 邪魔な父親はもう居ない。自分に逆らう魔術師も一掃した。後は目の前のアザゼルを殺し、聖女と獣人を手中に収めるだけなのだ。
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