ep.11

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「分かってねぇな、お前は」 グロウリアが腹違いの弟だと知っても、アザゼルには何の感情も湧かなかった。 もちろん父親だと名乗る男の跡を継ぐ気もさらさらなく、グロウリアと争うつもりもなかった。 ただ、自分を殺しにやってきた弟の顔を見た時、アザゼルは不思議な気分だった。同情とも少し違うが、濁りきった金色の瞳が妙に引っかかった。 産まれてすぐに森に捨てられた自分と、公爵家の令息として何不自由なく過ごしてきたであろう弟。 元々家族に未練などなかったアザゼルだったが、自分とは対照的なグロウリアを見ても嫉妬心の欠片も浮かぶことはなかった。 むしろ、公爵家の跡取りなどという面倒ごとを押し付けられずに済んで幸運だったとすら思った。 「お前の相手は俺だけじゃない。この魔術師団はもう終わりなんだよ。お前がどう足掻こうがな」 「黙れ、お前に何が分かる。ただ少しばかり才があっただけで、自由気ままに生きてきたクズに、僕の何が」 「自由気まま、ねぇ。じゃあお前も、俺みたいに捨てられてりゃ良かったな。魔物がうじゃうじゃいる森のど真ん中に」 「っ、僕を馬鹿にしているんだろう!どうせ出来損ないだと」 「いや別に?俺は全部、どうでもいいんだよ」 勝とうが負けようが、生死すら大した問題ではなかった。今までずっと、死ぬ理由もないからただ生きていただけ。 イザベラという存在に、出会うまでは。 ──貴方は私の、救世主です。 そう言われる度に、それはお前だと返したくなる。その力と優しさゆえに搾取され続けてきた彼女の人生を、ここからは俺が守る。 邪魔する奴は誰であろうと許さない。 (イザベラは俺の、俺だけの女神) ハネスは未だ憎々しげにアザゼルを睨めつけているが、その魔力は尽きつつあった。 先の反乱を鎮圧し、それに加担した者は家族含め粛清し、自身に仇なすものは全て殺した。これにより、更に彼の独壇場となったら、 しかし聖魔術師団の戦力が大幅に減ってしまったこともまた事実であり、これを機に他国の魔術師達が攻めてくるかもしれないと、ハネスは危惧していた。かつては自分もそうして、女子供であろうとも容赦などしなかったのだから。 (…どうして俺は、この男に勝てない) のらりくらりと適当に生きているだけのくせに、俺がどれだけ血反吐を吐きながらこの席を奪い取ったかも、知らないくせに。 ハネスは、心の底からアザゼルを忌み嫌っていた。今度こそ殺せるはずだと、そう確信していたのに。 聖女の目の前でこの男を殺し、従わせる算段だった。それがどうだ。確かに虫の息だったアザゼルは、余裕の笑みで自身の攻撃を受けている。 避けないことにも、心底腹が立った。今更善人の真似事など、虫唾が走る。 「俺とお前は似てる」 「…は?」 ふざけるのも大概にしろと、ハネスは青筋を立てる。卑しい血の混ざった紛いものと、純粋な魔術師の血族である自分。どこをどうとれば同じだというのか。 「したいことをしたい時に、他人なんかどうだっていい。全て滅びようが、構やしない」 アザゼルは、ハネスのことが嫌いではない。興味もない、好きにすればいい、相手にするのが面倒だったから適当に姿をくらませていただけ。 今の自分は、アザゼル自身にとっても予想外のことだった。たった一人の少女に、これまでの全てが塗り替えられた。 「イザベラの為に、お前を止める」 「…くそがあぁぁ!」 自分がアザゼルの眼中にもないという事実に、ハネスは更に怒り狂う。身体中に残っている魔力の全てを、その感情に乗せた。 「死ね、アザゼル!」 「まぁ、こうなるよな」 イザベラを悲しませない方法を見つけられなかったことに、アザゼルは深い溜息を吐いた。
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