ep.12

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流石のアザゼル様も若干バツが悪そうに、視線を横へ逸らす。 「あの時は、聖女と呼ばれていたこと以外はお前をよく知らなかった。興味本位で、そのままお前に介抱された」 「ということは、私が慌てて介抱しなくても…」 「俺があのクソジジィ共のちんけな矢ごときで死ぬわけねぇだろ」 (じゃあ、もしかして…) 私は続けて、彼に問いただす。 「あの茂みの下に倒れていたのも…」 「わざとだな」 「酷い!」 「なんでだよ!」 頬をぱんぱんに膨らませ、じとっとした目でアザゼル様を睨む。 「私はあの時、本当に心配していたのに!」 「ああ、分かってるって」 「それにどうして今まで黙っていたのですか!」 「…それは」 アザゼル様が視線を彷徨わせると、金色の丸い宝石がころころと転がっているように見えた。 「嫌われたくないだろうが」 「え…っ」 「笑うなら笑え!」 アザゼル様はとても分かりやすい。滑らかな肌を赤く紅潮させ、今度はなぜか彼の頬が膨らんでいる。 「…ふふっ」 あまりの可愛らしさに、口元を手で押さえていても笑いが漏れてしまう。 「アズ様を嫌うなんてありえません」 そっぽを向いている彼の顔を覗き込み、はっきりとそう口にした。 私に嫌われることが怖いだなんて、愛しくて愛しくて胸が苦しくなる。 「私がどれだけ、貴方を好きか」 「そんなことは分かってんだ」 「いいえ。分かっていません」 アザゼル様の頬をそっと両手で包むと、その唇にキスをする。彼は魂を抜かれてしまったかのように、瞬きすら忘れているようだ。 「これで少しは、分かっていただけましたか?」 「いいや。まだ足りねぇ」 「アズ、さま…っ」 酷く優しい、けれど荒々しく呑み込むような。ここが野外であると言うことも忘れ、私達は何度も唇を重ね合わせる。 (身体が熱い…) 恥ずかしくて頭がどうにかなりそうなのに、やめてほしくないと思う。 「はぁ……っ」 ようやく離れた唇。その余韻に浸る余裕もなく、私は薄らと涙を浮かべながら肩で呼吸を繰り返す。 ほんの少しだけ恨みがましい視線を向ければ、アザゼル様はそんな私を見て心底幸せそうに目を細めた。 「愛してる、イザベラ」 「も、もう!誤魔化して!」 「ははっ、そんな怒るなって」 アザゼル様は愉快そうな笑い声を上げ、私の肩を抱く。なんだかんだと言いながらも、そこにことりと頭を寄せた。 「なぁ。これからどうする?」 「そうですね。エイルダイアンの街が花でいっぱいになるところが見たいです」 「そういや、アレイスターがそんなこと言ってたな」 私達はとても自然に寄り添い、未来のことについて語り合う。 「これから先どこへ行っても何をしても、私は大丈夫です。アズ様がいてくださるから」 「当たり前だろ?一生離してやらねぇ」 「ふふっ、それは楽しみです」 幸せも困難も、貴方とならば乗り越えられる。聖女イザベラとして、ずっと永遠に。 「愛しています、アズ様」 「ああ、俺もだ」 私達はもう一度、とても自然に唇を重ね合わせた。 温かな金の光を反射した水面はゆらゆらと揺れながら、美しく銀色に輝いていた。
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