EP.8

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「じゃああの傷は、レイリオが自分で傷付けたの?」 私が治癒を施した、彼の腹部の酷い怪我。あれを自分自身でやったという彼の言葉に、私は驚きを隠せなかった。 「そうしなければ、正気を保っていられなかった」 「そうだったのね」 「それでも加減を図れず、あんな…」 先程よりもずっと落ち着いた様子のレイリオだったが、やはり私に怪我を負わせたことがどうしても気にかかるらしい。 「もう終わったことよ。アレイスター様のおかげで瘴気が再び広まることはないし、この森は元に戻ったの」 「…ああ、そうだな」 「カーノとリーノはどうしてあんなにぼろぼろだったの?」 「…仲間に、襲われたからだ」 それからレイリオは、自身の身に起こった出来事を私に教えてくれた。 ここエイルダイアンでは、スティラトールとは違い魔物と人間の棲み分けがきっちりとしている。人が深い森の奥に入り、魔物達を狩るということもない。 住処が荒らされなければ、魔物も人には危害を加えない。 そうして互いに平和に暮らしていた所、スティラトールから流れてきた瘴気がこの森の空気を汚濁し、魔物達を凶暴化させた。 カーノとリーノを護りつつ、自身の衝動も抑えながら食料を調達することは、とても困難だったらしい。実際、共食いまでしてしまう仲間も居たと。 (私にもっと力があれば…) 大神官様と対峙した時のことを思い出すと、どうしても悔やまれる。彼に隙を与えなければ、こんなことも起こらなかったのではないか、と。 「ごめんなさい」 「どうしてお前が…いや、聖女様が謝罪する。あなたがいなければ、俺達は全滅していた。この森の魔物も、あなた達の手にかかって死んだ者はいない」 レイリオはぎゅっと眉を下げ、まるで懇願するかのように私を見つめる。 「お前は…あなたは何ひとつ悪くない」 「レイリオ…」 過ぎたことに気を砕いても、それはもう取り返しがつかない。大切なのは、これから先の未来なのだから。 「ありがとう、レイリオ」 「礼を言われるのもよくわからない」 「ふふっ、いいの」 再び私の膝にやってきた二匹の子狼の背を撫でながら、私はレイリオに向かって微笑んだ。 「それから、聖女様じゃなくて名前で呼んでもらえると嬉しい」 「しかし…いいのか…いいの、ですか」 「言葉も、無理に丁寧にする必要はないわ」 レイリオは獣人だと言っていた。今までの様子からして森で暮らしてきたのだろうし、人間の暮らしにあまり慣れていないのかもしれない。 「ありがとう、イザベラ」 「こちらこそ、たくさん話をしてくれてありがとう。レイリオ」 目元を隠している長い灰色の髪が、さらりと揺れる。その隙間から、彼がほんの少しだけ嬉しそうに笑っているのが見えた。 それにしてもこの世界には、私の知らないことがまだまだたくさんあるのだと、レイリオを見ながら改めて思う。私の視線に気付いたのか、彼が小首を傾げた。 「私ね、アザゼル様と生まれ育った国を出て旅をしているの。今までずっと、狭い世界しか知らなかったから。自分の目でたくさんのものを見て、たくさんのことを肌で感じたいなって」 「国を出て…自分の目で、たくさんの…」 「きっと世界は、思っているよりずっと広いから」 「世界は、広い…」 長い前髪に隠れた私と同じ鈍色の瞳が、一種きらりと揺らめいた気がした。

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