第1話

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第1話

「喜べ、カロリーナ。そなたの婚約が決まった」 「やっと決まったのですね」 「相手は『皇太子』だ!そなたは『皇太子妃』になる!」 「謹んで、お受けいたします」 今から五年前、お父様から告げられた婚約話。 僅か十歳で決まった政略結婚に対して思うところは特にありません。 私の結婚が政略的なもの以外に有り得ないというのは子供心にも理解していたからです。同年代の令嬢達のように、お伽噺に現れる“白馬に乗った王子様がお姫様を迎えに来る”ことを夢見る少女ではいられません。ですが、デリカシーという言葉が少々、いえ、かなり欠けているお父様は「好きな相手が出来たなら婚姻後に囲い込めばいい」と実に現実的な事を言い放った時は流石に呆れました。そこは「例え政略結婚であったとしても互いに想い合う事は出来る」とでも仰るものでは? それを「跡継ぎは()()()()()()()であればいいのだ」とも言い放つ始末。 我が父ながら最低です。 「よいか、カロリーナ。今日より、そなたは今まで以上に己を極めなばならん!」 そうして始まった実地訓練という名の悪夢の日々。 政治、経済、貴族のパワーバランス、民衆のありよう、諸外国との関係性、外交、人を上手く使う方法、誘導の仕方、見極め方。ありとあらゆるものを詰め込まれては、あらゆる場所に行かされては笑顔で応対する。頭と体がどうにかなりそうでしたが、お父様は容赦しません。 一応、箱入りのお姫様である娘にする事ですか?と思うこと数千回。 皇太子妃の範疇を超えてますよ?越権行為にあたりますよ?諸外国とトラブルになるのでは?これは詐欺では?などなど。一部不穏な教育もあったものの、この地獄の『皇太子妃教育』が終了した頃には『完璧な姫君』の称号を得ていました。 努力とは実るものだと、つくづく実感したものです。 ただ、教育の賜物か、はたまた弊害か、私は少々、辛辣な性格になっていました。 王子殿下や、その側近、学園に通われる紳士淑女の皆様に、ついつい()()()を焼いてしまうのです。 他意はなかったのですが、それによって彼らから苦手意識を持たれてしまいました。仲良くなりたかったのですが……こればかりは仕方ないですね。 現在、私は貴族専用の学園に通っております。 十八歳で卒業するまでの七年間を通うのが基本ですが、中途入学や退学する学生も数多おります。それというのも、貴族の大半には幼い頃から決められた婚約者がいて、家の都合上、婚姻が早まる場合もあるのです。入学についても同じこと。学園は義務ではありません。通う必要は無いのです。そのため、後から入学する学生もいれば、退学する学生もいます。 他の国は違うかもしれませんが、我が国の貴族社会では途中入学者も退学者も問題視されません。何故かというと、学園に入学する事の必要性を重視するのは各家の判断に任せているからです。それに、学歴を重要視している家では、大学受験資格の試験に合格して、大学卒業を目指す方々も多いのです。 何はともあれ、最終学歴さえ良ければ高官になれますからね。 それと、学園には留学生が多くいる事も理由の一つかもしれません。 余所では考えられない程に留学制度が整っているため、周辺諸国の王侯貴族も多数在籍されております。そういった意味では国際色が豊かな学園と言えなくもありません。 もっとも、そこに集う人々の思惑が交差しあった場所でもあるのです。 (わずら)わしいと感じる我が国の貴族子弟達が学園から距離を置くのも仕方ないのかもしれませんね。 私も『皇太子妃』になる立場でなければ通うのを考えてしまうほどなのですから。 それでも、外交関係の家や他国との交流が盛んな家に比べればマシな方なのかもしれません。
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