足りない

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 本当に気持ち悪い。それは自分のことだった。放課後、塾の教室に入ると、自分の席に着くなり除菌用のウエットティッシュで机も椅子も念入りに拭かないと気が済まない自分に腹が立った。  母も綺麗好きだった。だから家の中は常に掃除しているし、埃一つ落ちていない。リビングのテーブルや椅子、階段の手すりも玄関も、母は常に持ち歩いているウエットティッシュで暇があると拭いていた。それが僕にも移っていた。  教室では先生の甲高い声が響いていた。特別進学クラスの教室には十五人程座っていて、みんな熱心にノートを取っている。みんなの顔や名前は知っているけど、あまり個人的なことを話したことはない。この塾で一番難しいコースだけあってみんな賢くて、それに気むずかしい。中学生の頃に通っていた塾では仲良く話す友達も中にはいたけど、高校になってこの塾に通い出してからは、友達と仲良く話すなんてことはなくなった。
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