第9話侯爵令嬢

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第9話侯爵令嬢

「ブライアン・ヘルゲンブルク公爵子息の話は聞いたかい?」  ロリア王国に滞在していた数週間後にお父様がいらっしゃいました。滞在先がお母様の実家である公爵家ですからね。お父様も来やすいのでしょう。 「学園を退学後に公爵領へ行った事は知っていますわ」 「詐欺女に引っかかったせいで全てを失ったようだ。もっとも例の茶会で大恥をかいたからな。どちらにしても結果は同じだっただろう」 「おじ様、ブライアン様も御性格を理解していなかったのですね」 「一人息子だからな。良く目があったのだろう。まさか、高位貴族としての常識が備わっていないなど普通は思わないものだ」 「茶会の意味を理解していませんでした。御夫人方の役割も……あそこに呼ばれる女性は全員『お茶会』の真の理由を分かっている方々ばかり。それは男性側も同じ。そんな処に何も知らない素人を突入する方がどうかしています」 「茶会という名の外交だとは全く思いつきもしなかったらしい。もっともソレは今も同じらしいがな」 「説明するものではありませんからね」 「貴族には、特に高位貴族には暗黙の了解が多数ある。それを説明しなければ理解できないという者は『落第者』の烙印を押されたも同然。公爵夫妻もブライアンに説明できなかったのだろう。ブライアンの相手も茶会に相応しくない装いで、挨拶一つ満足にこなせなかったらしい。参加者は一斉に眉をしかめたそうだ。年長者は『アレは使い物にならない』と判断したらしい」 「それだけではありませんでしょう?」 「一番の問題は王女殿下の件だろう。王女殿下がワザワザ婚約者の国の茶会に分かり易く民族衣装で参加したというのに、あのザマだからな」 「殿下もワザと民族衣装で参加なさったのでしょうね」 「恐らくな。彼らを追い詰めるためだろうが、ヘルゲンブルク公爵に対しての報復も含まれていた筈だ」 「公爵夫人も王女殿下に協力なさったと聞きましたが……本当ですか?」 「それは本当だ。夫と息子のなさりように怒り心頭だったのだろう。公爵夫人はキャロラインを実の娘のように可愛がっていたからな。キャロラインを蔑ろにするブライアンにも何度も叱責していたようだし、それを許す夫にも許せなかったのだろう。今頃、公爵家は修羅場の真っ最中のはずだ」 「どういうことです?」 「公爵夫人が離縁状を提出して屋敷を出ていったらしい」 「それは……」 「あの公爵家は夫人の内助の功でもっていた処があるからな。一人息子が跡取り失格の烙印を押された挙句に妻から離縁を言い出されたことで社交界から爪弾きにされている。屋敷の使用人達も夫人を慕っていたからな。辞職者が相次いでいて対応ができない有り様らしい。そんな状況からも高位貴族達から『名門公爵家の当主としては不適切だ』という意見が多くてな。近いうちにその座を追われる事は確実だろう」  何でしょう。  私達の婚約解消で公爵家がトンデモナイ事態になっています。  従姉である王女殿下から「敵は取って来たわ!!」と高笑いなさっていましたし……。公爵夫人からも謝罪の詫び状と共に「愚者どもに思い知らせてやります」という文言がありました。 「キャロラインは自分で思っている以上に皆から愛されてるねぇ」  そう言う事なのでしょう。  目の前にいるお父様も一枚かんでいる筈です。  ブライアン様達には申し訳ありませんが、今とっても気分が晴れ晴れとしています。  私と婚約を解消してくださってありがとう。
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