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「わあ! 凛ちゃんSクラスだ!」
「すごいね!」
「ありがとう」
四月。
学生にとって重大なクラス発表。
それが、都立桜花高校の二年生にとっては少し特殊な意味で重要なイベントだった。
都立桜花高校は都内でもトップレベルの偏差値を誇る名門校。その手厚いサポートと厳しい教育方針によって、毎年何人もの学生を名門大学に送り込んでいる。そんな高校には当然、頭脳を武器にして、勉学で社会を上り詰めようとする人がやってくる。
そんな我が校の厳しい教育方針のうちの一つが、二、三年生でのクラス替えである。
一年生はAからEクラスに分かれるが、二、三年生ではその五クラスにSクラスが追加された六クラスに分けられる。それはなぜなら、二、三年生のクラスは成績順で決まるからだ。EからAクラスまでは、下から三十人ずつでクラス分けをしているが、Sクラスは成績上位者五人の特別クラス。SクラスであることはSクラス生徒の誇りで、Sクラスになることが桜花高校の生徒の目標だった。
かくいう私ももちろんSクラスを目指して一年間勉学に励んできた。そして与えられた、この評価。
「りんちー、反応薄いけど内心めっちゃ喜んでるでしょ?」
「そりゃ……当然でしょ」
「もっと大袈裟に喜ぼうよ! うおぉ! とか、よっしゃぁ! とか」
「喜びかた男か。凛ちゃんはそんな感じじゃないでしょ」
「でもいいじゃん、これが凛って感じで」
「たしかにりんちーっぽいよねぇ」
賑やかに、しかし心から祝ってくれる友人たちは、一年生の時にクラス内で上手く人と話せなかった私に向こうから話しかけてくれたのがきっかけで仲良くなった四人だ。
「うーん、私らはAクラス止まりかぁ」
「さすがに難しかったねぇ」
キーンコーンカーンコーン。
学校特有の、高い音の鐘が校内に鳴り響く。
「あ、そろそろ教室行かなきゃ」
「じゃあまたね、りんちー」
「うん、またね」
私はクラス発表の掲示板に背を向けて、教室棟に一歩踏み出した。
その時。
「っ、う……」
「ああもう、泣かないでよ。私我慢してたのに」
「だ、だってぇ……」
「Aクラスなんだから、まだ大丈夫だよ。ほら、来年S狙おう?」
「……来年は、一緒にS行こう。ね?」
『五人ともSクラス行けますように!』
『ちょっと、それ私らで上位独占ってこと? 流石にキツイでしょ……』
『えー、でも願うだけタダじゃん!』
『まあ、いいんじゃない? そう言ってあんただけEクラとかかもしれないし』
『そうだね。今のうちに見れる夢見せておいてあげようよ』
『みんな酷い!』
春休み前、終業式の日に交わしたあの約束。
みんなでSクラスに行こう。
すっかり忘れていた。あの大切な日常。
「集まったわね。まず、Sクラスへの進級おめでとう。あなたたちの机の上に置いてあるのは、このSクラスであることを証明する桜花章です。各自ブレザーの胸元につけておくように」
机の上にぽつんと置かれた箱の中に入っている桜の形の校章。この学校の生徒ならば誰もが憧れるバッジ。
箱の中から手に取ったそれは、ひどく冷たいものだった。
どうしてだろう。あんなに憧れて、手にすることを願っていたはずなのに。
スカートのポケットに入れているスマホから微かにバイブレーションの感覚がある。
どうやらAクラスはホームルームが終わったらしい。
一度、二度、三度、四度。
それっきり、バイブレーションは止んでスマホはピクリとも動かなくなった。
ああ、どうして。
あんなに眩しかったはずの桜が、今はこんなに憎らしいのだろう。
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