僕たちの足下には死体が埋まっている

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 だから次の日、ツボミが突然この町からいなくなってしまったと知った時、僕はどうしようもない喪失感に襲われた。  何より辛かったのは、ツボミがお別れもなしに突然いなくなってしまったことだった。どうしてツボミは僕に何も言ってくれなかったのだろう。そこで僕は昨日ツボミから聞き逃した言葉があったことを思いだした。  もしかしたら、あの時風に攫われて消えた言葉の中になにかヒントが隠されていたのではないのだろうか?  僕は影を執拗に追う猫のようにツボミが話した言葉を探し続けた。でも結局何かが分かることはなかった。  がらんどうになった気持ちを抱きながら学校生活を過ごした。その胸にぽっかりと空いた大きな穴の輪郭を僕はしっかり指でなぞることができた。綺麗なまん丸に空いた大きな空洞。あったはずのものがなくなり、明らかになにかが不足しているということだけがはっきりと分かる。  足りないものの正体がツボミの笑い声で、肩を寄せ合ったときの温かみであることは考えるまでもないことだった。  小学校を卒業し、僕は地域の子供達が集められた中学校に入学した。なんの変哲もない普通の学校だった。服装に厳しい先生がいて、無愛想な先生がいて、真面目な生徒には厳しく不良な生徒には厳しい先生がいるような学校。  だからそこにいじめがあることもなんの変哲もないことだった。そのターゲットが僕でなければ、僕はいじめをただそこにある事実として容認していたかもしれない。  いじめられる理由なんて僕にはちっとも分からなかったし、誰かになにかした覚えもなかった。だから多分、運が悪かっただけ何だと思う。天気の同じだ。実際、いじめの主犯格だった喜多原と接点を持ってしまったきっかけは出席番号が近かったというだけだった。  初めは喜多原とごく数人による嫌がらせだけだった。授業中に消しゴムのかすを投げつけられるだとか、上履きが隠されているとかそういうくだらないもの。だから僕はそれら全てを無視し続けた。それが全くの逆効果だったと知ったのは、日が経つにつれていじめが輪は大きくなりクラス全体を巻き込むようなものに変化していった時だった。  巻き込むと言っても、直接手を下すのは喜多原を含めた数人だけで他の人間は僕が嬲られるのを見ているだけだ。身体を殴られることも十分に辛かったけれど、クラスメイトのその視線が何より僕を痛めつけた。  もちろん誰も手を差し伸べてはくれなかったし、僕からも誰かに助けを求めることはできなかった。こんな思いをしてどうしてまだ学校に通わなくてはいけないのか分からない。けれど、今思えば僕は目の前にルーチンに従うしか生きる術を持たなかったのだ。少しでも立ち止まっていたら、少しでも逃げていたら、僕はそのまま死んでしまっていたと思う。  ツボミがこの町に帰ってきたのはちょうどその時だった。
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