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「待ってくれ。俺もいく! 」
標本のように固定された6体のドローンが並んでいた。6体はいずれもプロペラが旋回しており浮力が発生している。固定が外れればいつでも飛びたてるだろう。俺はその中の1機にとりついた。
「ハッチ開けてくれ」
「水島!? 」
見知った顔が驚きに目を見開く。
「何で来た!? 姫様は!? 」
浦木は士官学校からの友人だった。最初の印象は冴えない奴だと思ったものだが何の事はない俺も冴えない奴だったので馬が合った。
「姫様は宮内省が守るだろ」
俺はぶっきらぼうに答えると浦木に複座席につくように促した。代わりに俺が操縦席につく。
「俺が残ったら誰がこの鉄腕を動かす? まさか一人で動かすとは言わないよな? 」
日本最初のロボット漫画。それにちなんでちなんで名付けられた鉄腕は人型ロボットの総称だった。だがそれはロボットとは名ばかりでドローンに手足を取り付けたような代物でしかない。
「お前がいなくても俺には勝利の女神が付いてる」
「桜花か? 機械が女神とは寂しい限りだ」
『機械ではありません』
俺に抗議するようにコクピットから女の声が流れる。彼女は自動学習型戦闘サポートAI桜花。本来鉄腕は1人での操縦を目指して制作されたがそれが叶わず複座式となった。しかし将来的には1人での操縦を目指しており人間の操縦を学習し自動で進化するAIが内蔵されていた。それが桜花だ。最初はただのプログラムに過ぎなかったのだが何故か変な方向に学習して突然喋りだした。
『歓迎しますよ水島。貴方がいれば百人力です。この日本海を血の色で赤く染め上げてやりましょう』
「もっと穏便なことは言えないのか? 流石に引く」
『気持ちを鼓舞するためです。敵に情けは不要。一族郎党根絶やしにするつもりで挑まなくてはなりません。平家は頼朝を生かしたから滅んだのです。悲しみの連鎖は存在そのものを完全に消し去ることによって断ち切ることができるのです』
確かに桜花の言うことも一理あるがAIにそんなことを言われると人類の未来が心配になってくる。審判の日は近いかもしれない。
「敵にも家族がいる。戦争にもルールがあり互いに尊重し尊敬して戦わなくてはならない。相手も人間なんだ」
『綺麗ごとですね』
桜花はきっぱりと言い放った。
『中国も文化大革命で生まれ変わりました。必要な処置です』
お前はあれを肯定的に考えているのか…
「やっぱりお前のこと嫌いだよ」
俺は呆れて呟いた。
・・・
「貴方がエースパイロットなんですってね」
物語のお姫様というと美しい人間を想像するだろう。けれど実際のお姫様が美女かと言うと必ずしもそうではない。だって人間だから。王族に生まれただけで美女になれたら苦労はしない。化粧が高い身分だけのものであった時代には化粧で差がでたともいわれているが、現代では化粧は一般的な物になった。だから現代において姫が美人であったならそれは珍しいことだった。
「ちょっと聞いてる? 」
なんで俺がそんなことを考えていたのかと言うと目の前にその美しいお姫様がいたからだ。皇族に生まれた奇跡。早く即位して国のシンボルになるよう望まれていた。過去形だけれど。彼女は確かに美しかったがそれ以上に変人として有名になってしまったから今はもう誰もそんなことは考えていなかった。
「ねぇってば! 」
俺が無視して愛機の整備をしていると彼女はぷぅっと頬を膨らませる。
「鉄腕は実戦配備されて半年しかたっていません。その中では俺が一番ましに扱えるというだけです」
俺は素っ気なく話を打ち切った。そう彼女は変人なのだ。君子危うきに近寄らずだ。
現代人の必需品SNS。彼女もそれをやっており、そしてやらかした。その時彼女はまだ若かった。むしろ子供だった。ネットの恐ろしさなど知る由もなかった。日記代わりにSNSを活用しプライベートのあれやこれやを、それはもうあれやこれやをさらしてしまいその結果大炎上してしまったのだ。簡潔に言うと彼女はビッチだった。ついたあだ名は勿論ロイヤルビッチだ。
「待ちなさいよ。話はまだ終わっていないわよ」
ところが姫様はそう言うと俺の隣に座る。鉄腕の整備をする俺を無言でじっと見つめてくる。そうして上目遣いに見つめてくる。
「…」
それからしばらくの間彼女は無言で俺の作業を見つめ続けた。
もしかして俺に気があるのだろうか?
ふとそんな考えが頭に浮かんだ。
だが
「確かにオタクそう」
姫様はポツリと呟いた。
は?
それは全くの不意打ちだった。なんで今の流れでそんな感想が?
「オタクと言うのは内にこもるもののことです。こんなに体を動かすオタクなんていないはずです」
俺は機械の整備に力を籠め、それとなく力こぶなんぞを作って見せる。見よ、この鍛え抜かれた筋力を。軍隊仕込みの俺の肉体はやわなオタクのものではないのだ。
オタクというのは常日頃から隊長達に言われて気にしていたことだった。愛機の手入れに余念がない俺はその入れ込み用からオタクと揶揄されていた。だがそれ故に1番腕の良いパイロットでもいられるのだ。馬鹿にされる言われなんて無かった。
「気にしてたの? ごめんごめん。でもオタクって言ってたのは私じゃないわよ。隊長さんよ。私だって真面目に整備している人に向かっていきなりオタクだなんて思う訳ないじゃない? 暗いなぁとか。人付き合い悪そうぐらいは思ってもオタクは飛躍しすぎだわ」
案の定姫様にそんな事をと触れ込んだのは隊長だったようだ。だが姫様はそれを真に受けナチュラルに俺を見下している。
「でもねぇ。オタクって聞かされたらもうオタクにしかみえなくなっちゃったけどね。はぁ…一番の凄腕のパイロットと熱い恋を期待してたのにオタクくんじゃねぇ」
姫様は心底残念そうに言った。
「ご期待に沿えなくて申し訳ないな」
俺は怒りを押し殺して言った。
なんだこいつは喧嘩をうっているのだろうか?
大人げないとは思いつつ嫌味の一つも言わずにはいられなかった。
「だが俺もあんたについて噂はいろいろ知っているぞ」
「へぇ? なんて? 」
彼女はちょっと意表を突かれたような表情をしたが次の瞬間挑むような表情に変わっていた。彼女も自分は何と言われているのか知っているのだろう。何と言われるのか察したのらしい。この表情は俺を敵と認識した顔だ。戦闘態勢だ。
「ロイヤルビッチらしいな」
「ちょっとあんたもうちょっとオブラートに包みなさいよ」
姫様は呆れたように言った。
「SNSで炎上。その時ついたあだ名がロイヤルビッチ。みんな知っている話だ」
「あんたみたいなオタクでも知っているんだ? 」
「俺だって世間のことぐらいは知っている。後、俺はオタクではない」
「私がどんなことをしたのかも? 」
「男をとっかえひっかえしたらしいな」
「あれくらいでとっかえひっかえとか。年頃のロマンスを楽しんだだけじゃない。さすがオタクくんね」
「俺がそう言っているわけじゃあない。ネットでそういわれていたからそう指摘しただけだ。そして俺はオタクくんじゃない」
「まぁどうでもいいけどね。3年も前の話持ち出して。こそこそネットで人の誹謗中傷を見ているオタクくんになんて思われたって構わないわ」
「お前だって隊長の話を聞いて俺をオタクと呼んでいるんだから俺がネットの話を聞いてロイヤルビッチと呼ぼうがお互い様だ」
俺は頭に血が上っていたが冷静だった。
これで姫様の心象が悪くなってもそれで軍隊での俺の立場が悪くなることはない。姫様はただのお飾りなのだ。むしろ俺への興味もなくなって万々歳のはずだ。
「まぁそれは一理あるわね。自分が人にやられたら嫌なことを言ったのは無神経だったかもしれないわ」
彼女はしばらく考えると言った。
「オタクくんは訂正するわ。隊長さんにオタクって聞いてなかったら思わなかったから。だから暗そうで人付き合い悪そうくんに訂正する。今度から貴方は暗そうで人付き合い悪そうくんと呼ぶことにするわ」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべる。
どうやら俺をどうやり込めるかを考えていたようだ。だが、そうはいかない。
「ああ、それならいいだろう」
俺は頷いた。
「え? いいの? 」
意外そうに彼女は言った。
「それは事実だからな。だが俺にも友人はいる。友人との付き合いは悪くない。むしろ付き合いはいい方だ。だから該当するのは暗そうだけだ」
「はぁ…じゃあ暗そうくんか」
彼女は呆気にとられて言った。
勝ったな。俺はそれで溜飲が下がった。これで彼女とも険悪にならずに適切な距離が取れるだろう。精神的に勝利したし実益的にもも勝利だ。完全勝利と言っていいだろう。俺だって別に彼女を傷つけたいわけでも貶めたいわけでもないのだ。事実をつまびらかにしたかっただけだ。俺はオタクではないのだ。
「変な奴」
彼女はそう言って笑った。
なんだか逆に好感度が上がっている気もするがきっと気のせいに違いない。今の言動で彼女の好感度が上がるようなポイントなどなかったはずだ。
俺はまた愛機の整備に戻ることにした。
しかし彼女はまだ何かあるのか、もう一度俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「まぁ顔は並みだし悪くはないわね。オタクだけど。もうちょっとチャンスをあげてもいいわよ。私エースパイロットとのロマンスが夢だったから」
そしてなんだかすごい上から目線で言われた。なぜそうなる? というか何故また俺をオタクと呼んでいる? お前なんかこっちから願い下げだと俺は思った。
・・・
『パイロットの安全を守るのは私の義務です』
「肉を切らせて骨を断たないと死ぬ場合だってある」
『カミカゼですか? それはナンセンスです』
「そこまで極端な話じゃない。それが分からんうちはお前など使えないと言っている」
『程度の判断ですか。それに関しては我々の方が思慮が深すぎるゆえに判断できないといった方が正しい。次回の任務に向けてどの程度の損傷を良しとするか。分かりすぎるがゆえに大きな破損は許可できない』
鉄腕も桜花の補助があれば一人での操作も可能ではあるが今はまだ人間が操縦した方が明らかに強かった。今の会話にもその理由は如実に表れている。桜花はパイロットの命を最優先にするから逆にそれが判断の遅れを招くのだ。将棋やチェスでも同じだ。守ってばかりいては逆に不利になるばかりだ。
「桜花ちゃんは優しいね」
隣でメモを取っていた浦木が猫なで声で言った。気持ち悪い。桜花の声は浦木のお気に入りの声優の物であるらしく彼は桜花にぞっこんだった。
「ポンコツの間違いだろう」
俺はそう言うと桜花との会話を切り上げた。
「桜花ちゃんと話してたの? 」
キャンプに戻ってコーヒーを入れていると姫様がやってきた。姫様は本来は宮内省のキャンプに行るべきなのだがわがままを言って時々、いやしょっちゅう抜け出していた。
「自我が芽生えたんだって? 」
姫様がそう言うと俺にまとわりついてくる。桜花に意思が芽生え突然話し始めた。その噂は隊の連中の間で瞬く間に広まった。AIの反乱。審判の日。そんなSF的な話を期待され好奇の目で見られている。彼女もそんな噂を聞き付けたのだろう。
「会話をできると言っても普通のAIと変わらない。むしろ調整をうけていないからものすごく口が悪いぞ」
普通のAIならヘイトスピーチはしていけないとリミッターが付いているが桜花にはそんなものはついていない。差別用語も余裕で使ってくる。
「私のことビッチとか言ってくるくらい? 」
「自分でネタにするのか…」
俺は呆れたがそれが彼女の強さだろう。叩かれて委縮して辞めてしまえばそれまでだが例え嫌われても居残って戦えば次がある。政治家と同じだ。憎まれっ子世にはばかるという奴だ。ただ俺はそうやって敵を作っていくやり方が賢いとも思えなかったが。
彼女がこんなところにいるのもその我の強さゆえに嫌われて扱いに困っているからのようだった。ようは干されてこんなところに飛ばされているのだ。
「失礼なことを考えているわね? 」
彼女はジト目で言った。
「一応大事な話は入ってくるんだから…」
オフレコよ。と前置きして姫様が言った。戦争が始まるかもしれないらしい。
「じゃあ逃げるか? 」
浦木が言った。
「いいわね皆で逃げましょう」
姫様が同意する。いやいや、姫様が真っ先に逃げてどうする。
「俺達が戦わなければ誰がこの国を、家族を守るんだ? 」
「真面目か」
浦木が突っ込む。
どうやら2人とも冗談で本当に逃げる気はないようだった。
「水島にも家族がいるの? 」
「そりゃあいるだろう。水島だって人の子だ」
2人がそう言って笑う。どうやら俺の家族の話を聞き出したいらしい。そういえば浦木にも今まで家族の話をしたことはなかった。察しがいい奴だから自然とそうなっていたのかもしれない。
「家族はいない。事故で亡くなった。誕生日の前の日だった。誕生日には必ず帰ると約束したがそれっきりだ」
「!? 」
二人の表情が凍り付いた。不味いことを聞いてしまったという顔だ。別に気を使わなくていいのだが心苦しい。
「祖父に育てられたのだが祖父も軍に入る前になくなった」
「それは、悪かったな…」
バツが悪そうに浦木が言った。
「いや、別に隠すような話でもない」
「なんで軍隊に入ったの? 」
浦木はそれでこの話を打ち切りたかったみたいだが姫様は尚も聞いてくる。まぁ変に気を使われるよりはそっちの方が気が楽だ。
「俺はあまり頭がよくなかったし帰る場所もなかったからな」
「でも軍でなくても良かったでしょう? 」
「それは…」
「それは鉄腕があるからな。巨大ロボットに載るのは男の浪漫だ」
俺に代わって浦木が答えた。確かに浦木が軍に入った理由は鉄腕だった。ロボットと言うには余りに粗末な代物だが。
「一緒にするな。俺はちゃんと国を守りたいから軍に入ったのだ。なんといったか、そうノブレスオブリージュだ。条件に合った者が義務を果たす」
「それってノブレスオブリージュじゃなくない? 」
姫様が首を傾げる。
「ノブレスオブリージュは位高ければ徳高きを要すって意味よ。権力のあるものは義務を果たすっていう私のためにあるような嫌な言葉よ」
心底嫌そうに言った。確かに彼女は自由にしている方が症にあっているだろう。だが彼女は彼女なりに自分の立場について考えているらしく義務をはたすべく努力しているように見受けられる。だから隊の皆にも概ね好意的に受け止められていた。
「能力がある者が義務を果たす、という意味かと思っていた」
「能力ねぇ。確かにそういう風にも使うかもね。水島は一番鉄腕を動かすの上手いもの」
パイロットとして優れているから義務を果たす…そう彼女は受け止ったようだ。確かにそれもあるが
「俺には家族がいないからな。家族のいる人間は家族のために生きるべきだ。危険な任務に就くなら家族がいる人間が付くよりいない人間が付いたほうが効率的だ。理屈に合っている」
「!? 」
俺は何となく言っただけだが彼女はぎょっとしたように俺を見る。
「そんなの全然理屈に合ってないわよ」
何故か怒ったように言った。
「家族がいなかったら危険な任務について言い訳? 死んでもいいって? そんなわけないでしょう」
なぜ彼女が怒っているのかよく分からなかった。
「落ち着いてくれ。別に死のうと思っているわけじゃない。大げさだ」
嫌な仕事だって誰かがやらなくてはならない。ましてや国を守る仕事だ。俺達の権利が保障されているのは国と言う後ろ盾があるからでそれがなくなれば蹂躙されるだけだ。
「だから俺のような人間から先に…」
「家族がなければ作ればいいじゃない。最初から諦めていることが問題だと言っているの」
そう言うと彼女は強引に俺の唇を奪った。
ヒューと浦木が口笛を吹く。
「なっ…」
「頑張り次第じゃこういうことも出来るんだから」
彼女はそう言うと悪戯っぽく笑った。
忘れていた。彼女はビッチなのだった。
・・・
「前方斜め35度よりミサイル。回避」
しかしコクピットには俺の声は空しく響いただけだった。
「どうした浦木? ミサイルが…」
『了解しました。ロケット噴射します。衝撃に備えて』
浦木に代わってそう答えたのは女の声だった。
「桜花? 」
『シールドを構えてください。追撃してきます』
浦木の返答がなく代わりに桜花にコントロールが切り替わっている。先ほど戦闘機の接近を許し機銃を受けた。プロペラへの被弾はなんとか回避したが…
「今時機銃か。たまたまではないな」
油断していた。戦闘の花形がミサイルの打ち合いになり機銃が時代遅れになって久しい。それなのに機銃を装備していたということは対鉄腕用の兵装としてだろう。対戦闘機に絶大な戦果をあげた鉄腕だがプロペラを直接狙われると脆弱だ。相手も対策を練ってきている。
浦木は無事なのか?
最悪の事態が頭を過る。しかしなるべくそれを考えないよう目の前のことに頭を切り替えた。
「戦闘機ごときが」
鉄腕は4つのプロペラを旋回させ浮力を生み出し両足に取り付けられたロケットエンジンで変則的な動きを可能とする。攻撃は頭部、あるいは両腕の機銃やミサイルで行う。機動力では戦闘機に劣るが反応力では凌駕し直接対決ではまず負けることはない。
俺はシールドを構えつつ。ミサイルで戦闘機を迎撃する。
機体に衝撃が走った。
『上手く受けきれました。損傷ありません』
「敵機は? 」
『撃破しました』
それはつまるところ現代の空中戦がミサイルの制度によって決まるからだ。いかに的確なポジションでミサイルを撃てるかで勝敗が決まる。そして鉄腕はミサイルに耐えうる盾を装備可能で戦闘機には防ぐ術がない。それが決定的な差となっていた。
『次が着ます。限界まで高度を上げ向かい打ちます』
プロペラを停止させ、ミサイル回避に使ったロケットを今度は上昇するために使用する。急激なGが身体を襲う。
「浦木は大丈夫なのか? 」
『大丈夫まだ息はあります』
桜花はそう答えたが重体なのは間違いないだろう。それにこのGだ。
「浦木は脱出させた方が…」
『私の名前の由来を知っていますか? 』
それには答えず桜花は言った。
『私の名前は第二次世界大戦中の特攻兵器、桜花に由来します』
「特攻は専門分野と言うことか?」
もとより生き残れる可能性は低かった。だから捨て置くということだろうか?
今回の戦闘の目的はおとりだった。できるだけ敵を引き付けてその隙に姫様を本国に送り届けるのが任務だった。本国には核が落とされ既に他の皇族は崩御されている。残っている皇族は姫様しかいない。本国は疲弊していたが核を撃ち込まれたことにより世界情勢は味方していた。もうしばらく持ちこたえることができれば各国からの援軍があり戦局は一転するだろう。しかしそれも降伏しなければの話だ。国内情勢は降伏に傾いている。それを阻止するために姫様を本国に送り届ける必要があった。
「浦木が死んだら俺がこちらに着た意味がなくなる」
覚悟はできていたはずだった。だが浦木には死んでほしくなかった。
今頃姫様は見つからないように本国に向かっているはずだ。その飛行機には俺が乗るという話も合った。だが俺はこちらを選んだのは皆で生きて戻るためだった。
「皮肉な話だな」
姫様には必ず帰ると約束したが…
「結局同じことを…」
誕生日に必ず帰るといった両親のことを思い出す。事故で亡くなる前、両親も俺のことを思い出しただろうか?
俺は眼下に広がる敵の戦隊を見下ろした。10…20…いや、沢山だ。
「いいだろう。できるだけ派手に暴てやろう。お前も言っていたな。日本海を血の色に赤く染め上げてやる」
『いいえ、貴方方は私が守ります。浦木も。水島、貴方も』
しかし桜花はそう答えた。
『私はパイロットを特攻に送り出すしかなかった桜花の無念を晴らすべくそう名付けられたのです。今度はパイロットを守れるように』
死んだ子供の名前を付ければその子は死なない。死んだ子が守ってくれるから。そんなジンクスがある。
「甘いな…」
俺はそう呟いたが今はそれが少し心強かった。
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