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嫌いな四月
桜は嫌い。
四月は嫌い。
僕の誕生日は、エイプリルフールの四月一日。
昔から「嘘吐きの日」って馬鹿にされていた。だから、良い思い出なんか無い。桜が咲くと、気が重くなる。ああ、また僕は「嘘吐き」って言われるんだ、って。
桜なんか……桜なんか。
でも……。
「花見、最高ー!」
「……ふふ」
僕たちは住宅街の桜の下を歩く。
手を繋いで、空いた手には缶コーヒーを持って。
半年前に付き合い始めた、大事な彼氏。ずっと一緒に居たいって、思う人。
「明日から四月かー。忙しくなるな」
「お互いね」
「そういえば、誕生日、四月って言ってたよな? いつ?」
僕は息を呑む。
言いたくない。けど、隠し事はしたくない……よし。
「明日」
「……はい?」
「明日の、四月一日……」
彼氏の目が丸くなる。そして、思いっきり、僕の肩に自分の肩をぶつけてきた。
「もうちょっと、早く言えって!」
「……だって、嫌いなんだ。自分の誕生日」
「なんで?」
「……エイプリルフールだから」
彼氏の目がますます丸くなる。
「嫌いって……お前が生まれた大事な日なのに?」
「良い思い出が、無いんだ……」
「そっか」
彼氏が、僕の手をぎゅっと握り直した。
「じゃあ、毎年、俺がずっとお祝いする!」
「え?」
「生まれてきてくれて、出会ってくれて、ありがとうって! ほら、桜も嬉しいって咲いてる!」
「……桜、そんなに好きじゃないし」
「はいはい」
そんなお前も好きって、僕にくちびるを寄せる彼氏。頬に伝わるぬくもりを、僕はあたたかい気持ちで感じていた。
桜は嫌い。
四月は嫌い。
でも、彼氏と一緒なら、好きになれるかもしれない。
彼氏の頭に桜の花びらがそっと乗った。僕はそれに手を伸ばして取り、こっそり自分のポケットにしまった。
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