私とAさんと春

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 「私、もしかしたら、桜嫌いかもしれないです」  気がついたらそう言っていた。  その日、いつものファミレスのバイトの後、先輩のAさんとカフェに行ってお茶をした。Aさんはバリバリの主婦だ。お互い、落ち着いたところで話をしたかった。  ひと息ついた頃、Aさんは鼻をかみ、 「はあ。今日ひどいなあ。春はこれだから嫌いなんだよね」  少しの間があり、 「そういえば、春で思い出したんですけど」 「私、もしかしたら、桜嫌いかもしれないです」  そうして、私はAさんにこんな思い出話をした。  大学時代、私はとある先輩と出会った。初対面は確か、所属していたサークル関係のイベントだった。彼とは初めてのことを色々経験した。彼とのこと以外にもこの時期は色々あって、これ以降はあまり詳しく思い出したくない。  そうしていつしか彼が、私の前からいなくなる直前(あ、多分亡くなってはいないと思うけど)、彼はSNSに桜の写真を上げていた。その桜はすごく綺麗だった。まあ桜は大体綺麗だけど、写真のバランスとかね。  だから……。 「桜は嫌い……。だと思います」 「そうなんだ」 「……まあ、男なんて星の数ほどいるからね。ありふれた言葉かもしれないけど」  カウンセラーの人以外にこの件を話したのはAさんが初めてだった。確かに特別な言葉はもらっていないと思うけど、Aさんに話せて良かった。避妊について心配してくれたのもありがたかった。そのときに食べたプリンは今も印象に残っている。
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