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 下校、散らばる赤と黒。列をなしたり崩れたり、団地を泳ぐ出目金らは放課後や課題の話で持ち切りだ。 「今日何する?」 「計算ドリルどこからだっけ?」  そんな声が飛び交う中、僕はひとり魚の群れから離脱した。三つ編みとポニーテールが僕をやめさせようと声を掛けたけれど、すぐに坊主頭がそれを止めた。物分かりのいい太っちょ出目金。髪が少し伸びてきて苔が生えているみたいだから、最近は心のなかで密かに苔石と呼んでいる。でも、きっと頭は柔らかいと思う。二人を止めるとき、僕を蔑みもからかいもせず「アイツはああいう奴なんだよ」と言って、笑顔を返してくれたから。    僕が好奇心を掻き立てられたのは遊びでも勉強でもなく「不思議・異質」だった。感情を持つヒトに関しては特にパターンがつかめないこともあって、家族には質問を質問で返すことも度々あった。研究と観察が趣味だと分かったお母さんは可愛げのない子どもだと内心思っていたかもしれない。お父さんはおおかたすぐに飽きるとでも思っていたのかもしれない。常に人を気遣うお母さんと裏表のないお父さんの性格からして、僕に振る舞う態度はそんな感じに見えた。  その日は帰路にある道に落ちた桜を追った。登校したとき、真っ先に目がいき、頭から離れなくなったのだ。    さくら、さくら。    そう言いながら僕は桜蕊を摘み取っていく。新緑の葉が、ざぁ……ッと涼し気な音を運んでちょっかいを出してきた。いいところなんだから、じゃましないで。    数本摘んだところで満足した僕は小さな手のひらにのせたうちの一本を親指と人差し指でつまんでくるくると踊らせる。すっかり紅く染まった雄蕊がなんだか愛らしい。 「さきちゃんのほっぺみたい」  そう言い終えたあと、  あ、でも、さきちゃんは女の子だ。  と考えて僕がまた首を傾げたときだった。 「さきちゃんってだぁれ。」
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