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Epilogue.
泣き喚く子に手を差し伸べた。俺の手を見た途端また喚き出したので、俺は呆れて抱っこしてやる。と、ピタリと泣き止んではキャイキャイと嬉しそうに擦りむいた時についた砂を投げるのだ。こちらにバッバッとかけるもんだからたまったもんじゃない。
だがこの手の対応には少し馴れている。あの女性が俺を振り回してくれた時の名残りとして体が覚えている。
「また絆創膏が必要だね」
妻の声に俺は、ああ、と返す。
あの日にあの女性が不審者としてパトカーに連行されて以降、姿を見ていない。必死の訴えすら洗脳だと疑われ、俺は為す術なく見届けることしかできなかった。
後で知ったことだが、近所では頭のおかしな人として有名だったらしい。俺に打ち明けてくれた内容を伝えたとて信じてくれる人がいないのも納得せざるを得なかった。
連行される時に指から抜けてしまったのか、桜蕊の指輪はあの女性が食べていたヨーグルトの中に落ちていた。アスファルトに取り上げて、どうしようもない気持ちで桜の木の方へ放ると、ハエのように蟻が群がり、ヨーグルトのかけらと液を物色していた。今思うと孤独死した人の脂と体液のように見えてしまって、俺はあの女性を知らないうちに殺してしまったのかもしれないと苛まれる。
もっとちゃんと訴えれば、あの女性を救えたかもしれない。
「スイミー」。
無糖のプレーンがまた舌を纏った。
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