駅徒歩7分 鍵無6帖ヒーロー付

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 その夜、泣きじゃくる俺を置いてヒロっちは消えた。    俺の生活は元に戻った。  ヒロっちがポチって増えたものはいっぱいあるけど、オーブンもコーヒーミルも俺は持て余している。エアコンの温度はヒロっちが設定した18度のまま、埃だらけの布団にくるまって寝た。  執筆は続けていた。書けば書くほど何が面白いのかわからなくて挫けそうだけど、ヒロっちが読みたいって言ってくれたから。  書いていればヒロっちに会える気がしたから。  だから、PCに向かう俺の背後でドアが開いた時、俺は嬉しかった。  ヒロっち!?振り向こうとして、強烈な痛みに昏倒する。  頭を殴られたのだ。来たのはヒロっちじゃない。帽子を目深に被っているが素顔の侵入者は部屋を見回し金目のものを探している。  やばい、何これ、貧乏アパートに泥棒は来ないとか、嘘じゃん。  そいつはPCに目をつけた。  ダメだ、これだけは。俺は咄嗟に覆い被さった。これには小説が入ってる。俺の、俺とヒロっちの。ここにあるのは下手でも俺の結晶で宝物だ。  抵抗するけど、力で適いそうにない。  ダメだ。頼む、やめてくれ。助けて、助けて、ヒロっち。 「とう!」  バン、と鍵のないドアが開いた。  煌めく銀色のマスク。現れたヒロっちの電光石火のパンチで侵入者は倒れる。  すごい、ヒロっち。マジでヒーローだ。ヒロっちはうちの引出しを勝手に開け、ガムテで侵入者を拘束する。 「ヒロっち!」 「大丈夫か、柴っち!」  俺は痛みも忘れ、ヒロっちに縋りついた。 「どこ行ってたんだよ!?」 「すまない。悪人がいると聞いてじっとしていられないのはヒーローの性。もう大丈夫、こいつが千葉の犯人だ」  ヒロっちの言う通り、パトカーのサイレンが近づいてくる。 「良かった。柴っち、傷は大したことなさそうだ」  こんなに痛いのに大したことないのか。俺の頭を見ながら胸を撫でおろすヒロっちに俺はヤケクソで笑った。 「うん、全然平気。俺、続き書くからコーヒー淹れてよ」   「ああ。病院の検査から帰ってきたらな。安心しろ、救急車も来る」  ヒロっちもニヤリとする。  相変わらずマスクで見えないけど、俺には絶対笑ってるってわかった。        
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