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「……やり直したい、って言ったらどうする?」 思えば私の苦い思い出には、いつも雨がつきものだった気がする。 壁にぶち当たった時も、プライドをへし折られた時も、希望を白紙に戻された時も。 好きな人との、別れも。 美しい横顔がぼんやりと窓の外の景色へと目を向けた。しとしと、穏やかに降り注ぐその雨は、彼の顔を憂いげなものに変えていく。沈黙が空からこぼれ落ちていく雫に溶かされゆく時、ゆっくりと薄い唇が動いた。 「そんなこと、一度も思ったことない」 紫煙を燻らせながら、苦い香りが私の五感を支配した。向けられた瞳は、まるで湿った窓ガラスのように麗しく光っていた。 「やり直しなんて後悔してるみたいだろ。そんなこと1ミリも思ったことないから」 凛とした真っ直ぐな眼差しは、彼の生き様を表しているようだ。それに巻き込まれたようなものの私は、呆れながらも、やはり嬉しくて微笑んでしまう。 あの頃は吸っていなかった煙草に不安を覚えながらも、変わらない面影に何故か安心する。 「だから、ここから始める」 だから、 もう一度、ではなく、新しく。 私達、常に最高を更新していこう。
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