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久保田さんがスマホを眺め始めると、こそっと山崎に声をかけた。
「山崎くんは今年、もう花見に行った? 私、これが初めてなんだ」
「いや、俺もこれが初めて」
「そうなんだ。てっきり、彼女と行ってるかと思った」
「いや、彼女、いないから」
ふむふむ。慌てて言う姿を見ると、嘘ではなさそう。
「堤は?」
「いないよ」
軽く答える。少しは私のことを意識している?
「……久保田さんは?」
山崎は大胆にも久保田さんに尋ねた。
「いないよ」
「やっぱり、仕事が一番ですか?」
「いやあ、いい人がいなくて。婚活でもするかなと思うんだけど」
そう言って、久保田さんは笑った。婚活なんて言うなら、もっと、可愛い格好をすればいいのに。
「そうそう、ソメイヨシノって、クローンだって知ってる?」
恋愛の話から遠ざかりたいのか、久保田さんが急に話題を変えた。
「クローンですか?」
「そう、同じ個体が接木とかで増やされたって。遺伝子的にはみんな同じ」
「へえー」
山崎は桜を見渡した。
「同じ時期に一斉に咲くのは同じ個体だからというの、面白くない?」
だから、そんな蘊蓄、ひけらかしてたら、ますますモテないと思うんだけどな。でも、私はにっこりと笑った。
「面白いです。さすが、久保田さん」
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