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山崎との距離はあまり詰められないまま、他の人たちがやってきて、宴会は始まった。
「堤さん、名前、なんていうの? ゆいちゃん? 可愛い子にぴったりだね」
なんて、部長に絡まれていたら、久保田さんが割り込んできた。
「可愛くない和子です。よろしく」
そう言って、部長のグラスにビールを注ぐ。うわっ、すごいアピール。私が可愛いって言われたから?
その隙に私はビール瓶とグラスを持って、移動した。
「ゆいちゃん、こっちおいでよ」
若い先輩たちが手招きしている。うちの会社は男性が多いし、みんな高給取り。事務職は安月給だけど、うまく入れてよかった。
「ゆい、久しぶり」
近づくと、同期の女子が二人いた。
「どうしたの? 違う部署なのに」
二人とも、私と同じような膝丈のスカートにパステルカラーのカーディガンを着ている。この春の最強モテコーデだ。
「部長さんが女の子は多い方がいいって、誘ってくれて」
「そっか。それなら、お礼に部長さんのところに行ったら? きっと、喜ぶよ」
「久保田さんと話してるから、また、後で」
そう言って、クスクス笑う。
「久保田さんって、もしかして、山一證券の仕事、サポートしてくれた人?」
振り向いて話しかけてきたのは山崎よりイケメンだった。
「はい、そうですけど……」
「あ、営業部の早坂です。初めまして」
「久保田さんと同じ部署の堤です。初めまして」
私はにっこりと笑った。早坂さんの指には指輪がないが、独身だろうか。コロナでテレワークが多かったから、こんなイケメンがいるとは知らなかった。
「な、可愛い子がいるって、言っただろう」
「本当ですね」
早坂さんの言葉に嬉しくなる。
「一緒に仕事することがあるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
そう言うと、早坂さんは立ち上がった。
「部長に挨拶してきます」
目で追っていると、部長と久保田さんのところに座り込んでしまった。せっかくの花見なんだから、仕事のことなんか忘れたらいいのに。
あんなところには行きたくない。
私は目の前の先輩たちにビールを差し出した。
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