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戦果のない花見だった。会社以外で恋人を探した方がいいのかもしれない。でも、まだまだ、世の中は合コンする雰囲気ではない。マッチングアプリに挑戦しようかなと思ったりもする。
「ゆいちゃん、小会議室にコーヒー頼めるかな」
「はい、いくつですか?」
部長ににっこりと答える。
「八人分」
部長は給茶機があるのに自分ではいれようとしない。ついでのように他の人の分も頼む。まあ、ボタンを押すだけだから、別に構わない。
お盆で会議室まで運ぶ。
中に入ると、会議の途中の休憩らしく、ザワザワとしていた。
その中に早坂さんがいるのにすぐに気づいた。
わざと遠くからコーヒーを配り、最後の一つを早坂さんに差し出した。
「こんにちは。久しぶりです」
声をかけると、戸惑ったようだった。
「あの、先週の花見で一緒になった……」
「ああ、ごめん、名前なんだったけ?」
覚えられてなかった。でも、これからだよね。
「堤ゆいです」
「あ、久保田さんの後輩の」
「はい、そうです」
さあ、話すぞ。と、思った時に肩を叩かれた。
「ゆいちゃん、ちょっと」
部長だ。余計なところに。
「コーヒーが駄目な奴がいてさ。一つ、お茶に変えてくれない?」
「はい」
せっかく、早坂さんと話していたのに。私は頭を下げると、お茶を取りに行こうとした。
「そういえば、お前、久保田女史と付き合い始めたんだって」
思わず、耳をダンボにする。え、久保田さんが誰と?
「そうだよ。もう、知ってるのか」
返ってきた声は早坂さんの声だった。
なんで? 私の方が若いし、可愛いでしょ。まだ、同期の子と付き合い始めたなら、わかるけど。久保田さんって。
「ここなら、他にも可愛い子がいっぱいいるのに」
そうそう。振り返らずにゆっくり歩く。
「いやあ、みんな同じに見えてさ。見てる分にはいいけど、付き合うのはちょっと」
同じに見えるって、私や同期の子のこと? 私は慌てて会議室を出た。
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