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そして士郎は、ある結論に辿り着くのだ。櫻子と妻の顔は瓜二つ。妻は、櫻子なのでは……と。覚束ぬ足取りで部屋に戻れば、そこには悟った面持ちの華枝が涙を落とし、待っていた。そして、華枝がなぜ桜を執拗に嫌っていたのか。なぜ華枝は、この町に来てから時折落ち着かない様子を見せていたのか。どうして二人は、瓜二つの顔をしているのか……これら全てが明かされクライマックスへ――
桜を巡り生まれた、奇妙な相縁と離別の幻想ミステリー。手元では、最後の頁が右に流れていった。
「はぁ……」
見返しを閉じて漏れた声。嘆息のように聞こえるがしかし、読了感からというよりは、ふと脳裏に浮かんだ過去から発せられたものだった。
「……桜。そう言えば、今頃はどうしてるだろ――」
と、ガラス窓越しの小雨降る中庭へ目をやった時である。不意に「見つけた」と背後に声がした。
「……あれ、城咲さん?」
そこには、呆れた目つきで見下ろすキリリとした顔があった。
「いつまで経っても来ないと思ったら、どういうつもりかしら?」
二度寝してしまった時のように慌てて腕時計を見ると、二時半に会う約束をしていたのに、とっくに三時を回っていた。
「……あぁ! えーっ、ごめん。わざとじゃなくて――」
すると、ビンテージ調のレザーバッグを椅子にかけ、丸いテーブルを囲む隣の椅子へ。
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