八重の桜が咲くころに

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11歳から宮仕えとなった小町は仁明天皇が皇太子の時代から崩御するまで更衣(こうい)として仕え、寵幸を一身に受けた。 当時は藤原氏が隆盛を極め、後宮だけでなく宮中で藤原の名を聞かぬ日はなかったそうだ。 そんな時代にお上の寵幸を一身に受けた小町の後宮での暮らしは気が抜けない毎日だったらしい。 特に小町が身籠った事は皇后や中宮に徹底的に秘された。 それでも後宮の主である皇后に隠し通せるはずもなく、小町への風当たりは一層強くなった。 小町に似た皇子であったことから仁明天皇から寵愛される。 『わらわはお上に申し上げたのじゃ。わらわの子を遠ざけて下さらねば、この子は若くして命を落とす事となりましょうと』 皇位継承の決まり事であった兄弟とその息子を交代して相続することを崩し、わが子の皇子を次の帝に仕立て上げたい藤原氏の思惑に仁明天皇の寵愛を受ける小町の皇子は、邪魔な存在でしかなかった。 何度も命を狙われ、呪詛を唱えられたこともある。 そのたびに小町は帝に懇願した。 『どうか、この子を愛おしくお思いならば、仏門に入れて欲しいとまで願い出たのじゃが・・・・お上はそれでもわらわと皇子をそば近くに置かれた』 そもそも更衣の生んだ子はたとえ皇子であっても皇位を継ぐことはない。 『皇后も一人の女子であった。お上が後宮での部屋通いは藤原の血を多く残すためであって、お上の寵幸を受けているのは皇后である己のみであると信じたかったのじゃ』 『それが藤原とは縁なき、わらわの元へ通われるお上が許せず・・・・』 小町はぎゅっと手にした扇を握った。 『あろうことか、お上に毒をもったのじゃ』 八重桜をじっと見つめる。 『わらわは八重の桜が嫌いじゃ』 小町の思念が私の目の前に浮かぶ。
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