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「天つ風 雲のかよひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ」
小倉百人一首第十二番、僧正遍昭の歌。
百夜通の深草少将が遍昭だったのではないかと言われているが、仁明天皇(深草帝)と小町から聴いた真実はこうだ。
仁明天皇(深草帝)と小町の間に生まれた皇子が、遍昭だ。
仁明天皇に寵幸され、崩御後仏門に入り、皇位を継承した文徳天皇の命により還俗、文徳天皇に仕えた。
母の死後もその美しさと文才を残すため、百夜通の物語を流布させた。
母の歌に呼応するような歌を詠んだのは、父を毒殺し、母を自死に追い込んだ皇后に父が死してなお逢いたいと願うのは母のみであったと皇后に知らしめたかったのだろう。
皇后の皇子に仕えることになったからこそ遍昭は、両親の死後も魂が惹かれ合う事を阻もうとする皇后の魔の手を少しでも止めたかったのかもしれない。
「あ~、桐谷さん、よかった。はぐれてしまったかと思いました」
能の間で別れた後輩へ山科川の対岸で待っていると連絡していた。
「ごめんね。少し川沿いをふらふらしたくて」
「ゆっくりできました?何だか、すっきりした顔されていますね」
「そうね。一つ肩の荷が下りたからかな」
私の言葉に首を傾げる後輩たち。
「そろそろ、ホテルに向かおうか。タクシー拾ったから」
「流石、桐谷さん、手回しがいい」
桜の花びらが舞っている。
私は空を見上げ大きく息を吸い込んだ。
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