プレゼント

1/1
前へ
/23ページ
次へ

プレゼント

 レースでの騎乗が明日に迫る中、翔馬は早朝から追い切りに乗り、各馬の調子を確認してから師と打ち合わせをした。  今日は師の管理馬が出走する事もあり、朝はかなり慌ただしい様子である。  翔馬は、今日1日を競馬場で過ごす事にしていた。コース形態等は一応頭に入っているものの、やはり見ておかなくてはならない。  どのようなレース展開が多いのか、芝の状態は・・・確認する事はいくらでもある。  午前7時、2頭を乗せた馬運車が動き出し、翔馬は師の車に同乗し、その後をついていく。競馬場までは25分・・・なんて便利な当日輸送なんだろう・・・あっという間にドーヴィル競馬場に到着した。  木があり、森がある。 森林に恵まれたノルマンディー地方だけあり、豊富な木材がふんだんに使われている建物の内装が目を引く。   自然を余すところなく活用している、とにかく緑、緑、緑の競馬場であった。  1周2200メートルの右回り芝コース、コースの内側にはオールウェザーコースも備えている。1600メートルまでのレースは、直線コースで行われるのが通例だ。  日本でも、新潟コースで直線1000メートルのレースが行われるが、直線1600メートルとはスケールが桁違いである。  翔馬は特等席に案内された。 ここならレース全体を一望する事ができる。師は翔馬に高性能が売りの双眼鏡を手渡し、管理馬出走の手続きの為、その場を離れた。  翔馬が騎乗する12頭のうち、11頭は直線レースへの参戦だった。    翔馬は双眼鏡を手に、戦いを始める競走馬とジョッキーに真剣な眼差しを向けた。  翔馬はその夜、なかなか寝付く事ができなかった。夜の心地よい風が、夏の緑の匂いを彼に運んでくれているにもかかわらず。  現地で、動画で、そして馬上で、できる限り頭に、体に刻み込んだ。後は、やるしかない!  大切な事を教えてくれた、遠く離れた異国で働く森永師に、  騎乗のチャンスを与えてくれたロッシ氏に、 精一杯の騎乗をしなければ!と、気負っていたのだろう・・・悶々とし.時だけが過ぎてゆく。 その時. LINEの着信音が鳴った。  どうやらスマホの着信音をオフにするのを忘れていたようだった。翔馬は苦笑いをし、スマホを手にした。  笑顔が溢れた。翼からだった。 『無事生まれた!母子ともに健康!元気な女の子だよ!明日からレースだろ!頑張れよ!約束、忘れるなよ!』  良かったな・・・・・・女の子か。 なんだか目が覚めてしまった。今向こうは何時だろう?こっちが0時過ぎということは・・・そっか、もう朝か。 『なんだか眠れん。何か眠れるおまじないしてくれ』翔馬はLINEを送った。  すると、たくさんの羊のスタンプが送られてきた。思わず笑ってしまう。  そして、翼と、彼女にふんわりと抱かれた、生まれたばかりの赤ちゃんとの3ショットの写真が送られてきた。 『さあ眠れ。朝日が昇るその前に』とのコメント付きで。  可愛い女の子だなぁ・・・あいつに似なくて良かったな。あいつもこれで正真正銘の父親か・・・。 つい最近、あいつから制服のボタンもらったばかりなのになぁ・・・。  たくさんの思い出が浮かんでは消え、また浮かんでは・・・。  いつしか翔馬は寝息を立てて、短い眠りに就いた。  まるで、今日は大切な日だよ!と知らせるかのように、寝室の窓際にはたくさんの小鳥達が集まっては囀り、喜びの歌を歌っている。  やがて、翔馬がその歌に気付き起きだすと、小鳥達は一斉に飛び立った。  LINEの画面が、プレゼントが届いている事を知らせている。  翔馬が〈受け取る〉を押すと、 黄金の翼を背負った馬が空を飛んでいるスタンプが画面に飛び出した。  テラスに出て、早朝の澄み切った空気を体全体で吸い込んだ。  フランスはドーヴィル。 天候は快晴、風は微風、視界は・・・良好である。 651d03e6-0684-4545-9db9-fc316da94949 PS・・・次回配信は23日金曜日正午です🐴🐴    いよいよ⁉︎
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加