翔べ君よ大空の彼方へ！

バースデー

「う〜ん･･･こんな感じかな？」
少女はカラフルなペンを机の上に何色も並べながら手紙を書いていた。ペンを持ちながらも、少女は夢心地であった。
　机の上には､ロッシ氏の秘書がスマホで撮影してくれた写真が、フォトフレームに大切に飾られていた。

　ショーマに抱かれてお馬さんの上にいたなんて、今でも信じられない･･･未だに少女は夢から覚める気配を見せない。

「ポッポー♪ポッポー♬」
壁に掛けられた鳩時計が午後18時を知らせた。
「いけない！あと1時間しかないわ！急がなきゃ！」
　少女はようやく夢から覚め、カラフルに彩られた手紙を完成させるべく､ペンを握り直した。

　やがて･･････
「うん。これでいいわ！」手紙の出来栄えに満足したのか、ホッと一息をついた。再びショーマの写真を見つめる少女。

「ポッポー♪ポッポー♬」
鳩時計が鳴るのと同時に、コンコンとドアがノックされた。
「エリー、時間よ！」
少女は完成した手紙を、宝物が入っている秘密の箱にしまった。

「はあ〜い！」

　リビングはパーティーの準備がほぼ整い､あとはロッシ氏が訪れるのを待つばかりであった。
「わあ〜凄い料理だあ〜‼︎」エリーが目を丸くした。

　テーブルの真ん中には大きなホールのケーキが置かれ、大好きなフライドチキン、ポワレ、ローストビーフ、フリカッセが並び、陽子が冷蔵庫からシーフードサラダとミルフィーユを取り出してセットした。あとは、ローザが今ピザ窯で焼いているピザが完成すれば準備完了だ。ローザは、ピザ焼きが得意である。いつも職人顔負けのビザを焼き上げるのだ。
「あと5分位よ！」
ローザの声がリビングに届いた。

「まるでクリスマスみたい！あれ？」
エリーは椅子が1つ多く置かれている事に気付いた。
「パパ、椅子が1つ多いわ？おじいちゃん､おばあちゃん、パパ、ママ、ロッシおじさん、エリー･･･」指を一つずつ折りながら首を傾げている。

「エリー、ロッシおじさんがとっても大きなプレゼントを持ってくるらしいよ！」ワインセラーからワインを選んでいるバルザが言った。
「大きなプレゼント？」
「うん。なんだか大きくて、椅子の上に置かなきゃダメらしいよ！」
「え〜〜っ！なんだろう〜⁉︎」少女は飛び跳ねながら想像を膨らませた。

「う〜ん･･･クリスマスツリーではないわね。そもそも椅子の上には置かないわ。う〜ん･･･大きなフランス人形かなあ⁉︎」
　いや･･･椅子に座る大きなフランス人形は、ちょっと不気味では？皆、目を見合わせて苦笑いする。

「あ！分かったわ！大きなテディベアよ､きっとそうよ！」
　エリーはテディベアが大好きである。
部屋にはたくさんのテディベアが置いてある。ベッドの上にも､洋服ダンスの上にも､机の上にも。
　しかし、それ以上に少女の部屋を占拠しているのは、《ショーマ》であった。
　写真、インタビュー記事･･･ありとあらゆる情報､媒体がこの部屋には詰め込まれている。翔馬もまさか、遠い異国に自分の拡大写真が飾られているとは夢にも思わないだろう。

「そうかもしれないね〜。けど、そんなに大きなクマさん､一体どこに置くんだい？」
　バルザが焼きあがったばかりのタルトタタンをテーブルに置いた。
「そうね〜･･･」
少女は人差し指をこめかみに当てながら、テディベアの置き場所を真剣に考え始めた。

「キンコン♬キンコン♫」呼び鈴が鳴った。
「あ！カーネルおじさんだあ〜！」
エリーは玄関へ駆け出して行った。

　皆、目を見合わせて頷いた。

「やあエリー､お利口さんにしてたかい？」
エリーはロッシおじさんに抱きついた。ロッシおじさんが白髭を蓄えているので、カーネルおじさんみたいで大好きなのだ。フライドチキンと同じ位に。

「うん！おじさん、明後日空港にショーマのお見送り連れて行ってくれるんだよね？」
「ああ、もちろん！一緒に行こうな！」
「やったあ〜！」エリーは嬉しさを隠しきれない様子で飛び跳ねている。
「あれ〜？ロッシおじさんプレゼントは？」ロッシは腕時計を見ながら、
「お〜、あと１０分位で届くかな？」と、エリーの髪の毛を撫でながら言った。
　少女の手を引いてリビングに入ると目を見開いて、
「凄いな･･･こんなに食べれるのかね？」と、バルザに手土産のワインを手渡した。

「おお！これは？･･････何と･･･あの･･･」
感激の様子である。

「さて、そろそろ始めようか！」
バルザの合図でパーティーが始まった。
「じゃあエリー､まずはこのアイマスクを付けなさい。外しちゃダメだよ」ロッシがエリーにアイマスクを付けた。
「何も見えないね？」
「うん！なあんにも見えない！」
何が起こるんだろう･･･エリーはドキドキわくわくである。
　ウッドとバルザが席を立った。
そして、玄関の方へ行き合図を送った。

「よいしょ！よいしょ！」
声を掛け合いながら、ウッドとバルザが空いている椅子の方へ近づいていく。
　大きなプレゼントは、緊張の面持ちで2人の後ろを息を殺しながら付いていき、空いている椅子に座った。

　陽子が大きなケーキの縁に沿って1本ずつローソクを立て火を付けた。
「ライトを消すわよ！」ローザが部屋の照明を全て消した。そして､皆が歌い出した。

「ハッピーバースデートゥ〜ユ〜♪ハッピーバースデートゥ〜ユ〜♩ハッピーバースデーディアエリー❤️〜〜ハッピーバースデートゥユ〜〜♫」

「エリー､お誕生日おめでとう‼︎」
「エヘヘへありがとう！」

「じゃあエリー、アイマスクをしたまま、1本ずつローソクを消しましょう。顔を近づけて」
　隣に座っているウッドがエリーにケーキを近づけた。1本､また1本、ローソクの灯りを消していく。1本､また1本､そして･･･。
「フウ〜〜っ！」最後の1本が消えた。
「エリーおめでとう！さあ、アイマスクを外して！」

　エリーはアイマスクを外した。そして、
自分の向かいの椅子に置かれた大きなプレゼントを呆然と見つめた。

　夢､なのだろうか？
ああ･･･夢ならばこのまま永遠に醒めないで欲しい･･･少女は願った。
　やがて、大きなプレゼントはにっこりと笑った。

「やあエリー、8歳の誕生日おめでとう！」

　少女の目にみるみるうちに光るものが･･･。
　やがて少女の目の前の世界が涙で溢れてしまった。

　PS･･･次回配信は7月1日土曜日正午です。ロッシ氏が⁉︎