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ロッシ
世紀の名勝負であった。
長い、長い写真判定の末に勝利を掴んだのは・・・。
サンヴァレリーであった。
着差は鼻差。その差、わずか4センチ。3着以下を5馬身半引き離すスーパーレコードで2頭はゴールを駆け抜けた。
ゴール板を過ぎた後、2頭の鞍上はレースが終わった事をパートナーに伝え、呼吸を落ち着かせながらそのまま並走した。
翔馬が左手を差し出した。相手も右手を差し出す。互いの健闘を称え合った。観衆は大興奮冷めやらぬ様子である。
翔馬は下馬し、レザンドリーを抱き締めた。そして、
「よく頑張ったね!お疲れ様!」と語りかけて両膝を折り、レザンドリーの左前脚にキスをした。
「素晴らしいレースでした。ゴールしてからの勝敗の手応えはいかがでしたか?」
「どちらが勝ったのかは全く判りませんでした。
結果は2着でしたが、スタッフが本当によく仕上げてくれました。そして何よりも、彼女が本当によく走ってくれました!」
「第2レースであなたが勝利後に下馬した馬は、付き添いの獣医の診察治療で回復したそうです。何故異変に気づいたのでしょうか?」
「いえ・・・馬の鼓動と・・・それから・・・なんて言っていいのかわからないですね」
「レザンドリーのレース前に、あなたは何かを語りかけ、その後レザンドリーはあなたに向かって馬体を横向きに変えました。まるで、乗ってください!と言っているかの様に。何かのおまじないですか?」
「・・・いやあ・・・一緒に頑張ろうな!日本語分かるかな?って言ったんですよ」報道陣は笑いに包まれた。
「次回はいつフランスに戻るのでしょうか?ファンは皆、ショーマの帰りを待っていますよ!」
「またこの場所に戻れるように、これからも一生懸命頑張りたいと思います!」
世紀の名勝負は全世界に放映されており、
ショーマ・カケル・オオゾラの名は全世界を駆け抜けた。
翌日のフランス紙レキップは、
【フランスに現れし、黄金の翼ショーマ・カケル・オオゾラ】と紹介し、
アメリカ紙USAトゥデイは、
【ショーマ、空を駆ける戦士】と紹介、彼の数々のエピソードを掲載した。
英国BBC放送は、ショーマが金髪の少女を馬上に上げて夢を与え、1頭の馬の命を救ったエピソードを紹介し、
【ジャパニーズ・サー】との最大限の賛辞を贈った。
「この子、ショーマじゃなくカケルって呼ぶのよ!って言っても、ショーマがいいって言うのよ!」陽子が笑って言った。
「そんなこと言ってないもん。翔馬の漢字も好きだし、カケルも好きだもん❤️」エリーは頬を膨らませながら翔馬に笑顔を見せた。
目の前にいるのが幻ではなく現実だと知り、幸せな気持ちでいっぱいである。そして、現実は少女をも大人に変えるのだ。フライドチキンを紙ナプキンで包み、口元も指先もきれいにする大人に。
「そうよね〜。毎日毎日、ショーマの乗ったレースやインタビュー見てるもんね〜フライドポテトで手をべとべとにしながらね!」ローザはエリーにウィンクをして、自分が焼き上げたピザを頬張り、
「うん、美味しいわ!ショーマも食べて!」と、翔馬にピザを勧めた。
「エヘヘ、だってカッコいいもん❤️」
このピザ本当に美味しいや!それにしても、フランスにいても、いつも日本のレースが見れるのか・・・凄いなあ。しかし、言葉が通じないというのはなかなか難しい問題なんだなあ・・・政治家が海外へ行った時、通訳が真ん中に立って、相手の話を通訳して・・・。正確に通訳をするのは大変だ。それにしても、陽子さんがしきりに、
「エリーがショーマの事大好きなんだって!」と、強調しているのが気になるんだよなあ。
「ああ・・・夢みたいだ。本当に空を駆けているみたいにワシの子供達をたくさん勝たせてくれて・・・」既にワインで出来上がっているのか、ロッシがさめざめと泣いている。
「あはは、おじさん泣いてる?」
エリーが席を立って、ロッシを慰めに行った。
ロッシがエリーを膝の上に乗せた。
「これはな、嬉し涙だよエリー。たくさん勝たせてもらった事はもちろん嬉しいけれど、もっと嬉しいのはな、馬の命を救ってもらった事だよ」
「うん!エリーも嬉しかったもん!」
ウッドがワイングラスを置いた。
「そうですね。あのような状況下で馬の状態を見抜くなんて、なかなかできる事じゃない」バルサも頷いた。
「その通り。ワシらが魂込めて育てた大切な馬を・・・生産者としてはこれ以上嬉しい事はないよ」
「いえ・・・そんな・・・」
あの時は・・・確かに発汗が・・・。彼の目が訴えかけているようにも思えたから。それに、命を救ったのは獣医師でもあるウッドさんだ。
「ショーマ、いやカケル君。君に聞いて欲しい話があるんだ」
「ワシはな、20年間騎手をしたんだ。大きなレースもいくつか勝たせてもらった。1度だけフランスダービーで1番人気になった事がある。強い馬だった。無事に行けば凱旋門・」
「ロッシ‼︎」
バルザがロッシと視線を合わせた。ロッシが首を振る。
「言わせてくれ、バルザ。カケル君にはぜひ覚えていて欲しいから。聞いてくれるねカケル君?」
聞かない訳にはいかない。
いや、絶対に聞かなければならない。
「はい」
そして、彼は語り始めた。悲しい物語を・・・。
PS・・・次回配信は7月5日午前8時です。感涙、感涙必至です😢😭
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